2020/11/13 12:11:28
付けた瞬間に感じるのは、とてもみずみずしいフルーティーなアコード。メロンとピーチをメインに、ブラックカラントでよりリアルな果実感を、ヴァイオレットでウォータリーな印象を、アニスでふっと吹き抜けるような清涼感を演出している。春の柔らかな日射しを想起させるようなフレッシュで明るいスタート。
フルーティーなみずみずしさを保ったままミドルへ。メインは底抜けに明るいミモザ。ミモザの香りは言うなればフローラルきゅうり(あくまで私の感覚)。本当にそうだと思う。トップのバイオレットから繋がり、ライラックの蜜っぽさやピオニーの可愛らしい甘さと混ざってとても快活なフローラルミックスに。
ミドルまでの明るいフルーティーフローラルを崩すことなくドライダウンへ。軽めのウッディと滑らかなベンゾイン、少しムスキーな香りもする。ムスクっぽいのはハイビスカスのせいかも。ハイビスカスの香り自体はあまりピンとこないけど、植物性ムスクとも言われるアンブレットと仲間だというし、香りが似ていても不思議じゃないはず。どっしり濃厚!これぞパルファン!なベースではなく、とても軽やか。軽くてもさすがP濃度といったところか、持続は7時間ほど。全体的にとにかく明るい、影なんてないくらいまばゆいフルーティーフローラル。
「シャンゼリゼ」のリリースは1996年、実はゲラン初のライトフレグランスとして発売された。その理由は1994年発売の世界的大ヒットとなったフレグランスにある。それはカルバン・クラインの「シーケーワン(アルベルト・モリヤス/ハリー・フレモント)」。軽い香りのブームを作った香水だ。発売が今から20年以上前というと、メゾンの歴史がなんたらかんたらと、深い理由がありそうな気がするが、要は流行りにのった当時の「今風」の香り。そして1999年に、それこそシーケーワンのように“好きなときに好きなだけ”使えるようなライトフレグランスのシリーズ、「アクアアレゴリア」をローンチすることになる。
ゲランの軽めシリーズの先駆けのシャンゼリゼも、ついにPは廃番(EDP、EDTは続投)。イディールやナエマのPが無くなったときから、いずれは無くなるのだろうな、とは思っていたが遂にその時がきてしまった。
でもシャンゼリゼの香りは、ディスコンの気配すら感じさせないくらい、底抜けに明るい。それこそ春の日射しように。
いつかまた会えるかもしれない。
…ぶっ飛びの値上げ付きで。
トップ:ブラックカラント、メロン、アーモンド、バイオレット、ピーチ、アニス
ミドル:ミモザ、ピオニー、ライラック、ハイビスカス、スズラン、ローズ、アーモンドブロッサム
ベース:サンダルウッド、ベンゾイン、バニラ、シダー、アーモンドツリー
調香師は、ジャン=ポール・ゲラン。
(フレグランティカより)
(フレグランティカによると調香師はジャン=ポール・ゲランとなっているが、実はオリヴィエ・クレスプの調香らしい)
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2020/8/21 13:55:04
ゲランの香水をあまり知らない人でも「夜間飛行」という名は1931年発表のアントワーヌ・サン=テグジュペリ作の小説として知っている人は多いと思う。小説の発表の二年後の1933年にゲランの「夜間飛行」は発売された。濃度展開は現在PとEDTの二種類(EDCは廃番)。「夜間逃避行(Vol de Nuit Evasion)」といういかにもフランカーのような香水は「アトラップクール(Attrape Coeur)」の改題のため香りとしては無関係。
プッシュするとまず感じるのは、アルデヒドで増幅されたシトラスミックスとガルバナム。Pはガルバナムをオーバードーズされているようだけど、EDTは比較的穏やか。ベースのモスやアニマルっぽさも少し透けているもの、心地よい酸味とクラシカルな苦味を感じる。Pのトップが荒れ狂う暴風雨なら、こちらは風は強いけれど危険はさほど感じない空模様。
少し経つと、トップのガルバナムとシトラスの合間から香っていたミドルのフローラルへ。Pのミドルはいかにも古典的香水にありそうな多層的フローラルで、クレジットにあるたくさんの表情をたくさん感じるが、EDTはそんなにコロコロ変わらないと思う。メインはナルシスとアイリス。ピリピリとした刺激とスモーキーさ、そしてグリーンな香り。アイリスの粉っぽさでなんとなく暗い印象だ。
ドライダウンになると、アイリスとナルシスの残香を抱えつつパウダリーなバニラへ。Pはもっとどっしりモスやウッディ、アニマルっぽさが効いていて、どシプレっぽい香りになるけど、EDTはもっと柔らかくて静か。トップ〜ラストまでせいぜい3時間ほど、もっと速い人もいるかもしれない。こういった古典的名香はPこそ至高、なんていう人もいるけれど、PにはPの、EDTにはEDTの良さがあると思う。
ゲランの「夜間飛行」は、テグジュペリの小説だけでなく実在の女性飛行士、エレーヌ・ブーシェにも捧げられた香り。25歳で連続12時間飛行に成功した彼女は当時の女性の自立、社会進出を後押しした存在だ。彼女も小説内のパイロット(ファビアン)やテグジュペリ自身と同じく、飛行中の事故で命を落としてしまう(死後にレジオンドヌール勲章を授与された)。
そんな生きるか死ぬかの瀬戸際に生きていた人々へ捧げた香りは、思いの外静かなドライダウンに落ち着く。雷雨の中、下に向かわなければならないにもかかわらず雲の上に出た小説の主人公のファビアンが最期に見た景色、荒れ狂う暴風雨を抜けて出た雲の上の真っ白な世界はひょっとしたら静寂に包まれたこのドライダウンに似たものだったのかも。
一時期廃番の噂が流れていたが、容量とボトルが変更になって(100mL→75mL、ビーボトル風スプレーボトル→逆さハートボトル)再販されている。
トップ:オレンジ、オレンジブロッサム、ガルバナム、マンダリンオレンジ、ベルガモット、ナルシス、レモン
ハート:アルデヒド、アイリス、ナルシス、バニラ、ヴァイオレット、インドネシア産カーネーション、ジャスミン、ローズ
ベース:スパイス、サンダルウッド、ムスク、オリスルート、オークモス
調香師はジャック・ゲラン。
(フレグランティカより)
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2022/7/8 14:04:58
リサイクルガラス使用のボトルに、収穫年代のわかる原料、そしてローズウォーター配合と近年のLVMH系フレグランスブランドで採用した要素を詰め込んだのが「ミスディオール
ローズエッセンス」。おそらくこれがフランソワ・ドゥマシー名義で発表される最後のディオールフレグランスになるだろう。香り自体は私には縁がなさそうだと思ったが、最後かもしれないと聞くと(ドゥマシー死んでないしそもそも調香師引退すると決まったわけじゃないが)手元に置いておきたくなった。
いつものミスディオールと違いエッジの薄いガラスに、少し澄ましたような首元のタイ。恐る恐るプッシュしてみると、ゼラニウムの青みのあるローズ香に、ナチュラルな茎や葉を思わせる心地いいグリーンが香る。うん、ドゥマシー作品はトップの掴みはだいたい大丈夫、ここからの展開がキモだ。
トップのグリーンローズの青さが抜けて、可愛らしいピンクのバラの香りになればミドル。ミスディオールローズエッセンスには、ドメーヌドゥマノンで2021年に収穫されたセンティフォリアローズが使用されているらしい。ここのグリーン→ピンクローズに移り変わる部分の香りは、青々とした蕾がパッと花開くようで中々いい。ゲランのローズシェリーと同じく水分の一部をローズウォーターに置き換えているせいか、いつものミスディオールよりもローズのリッチな甘さやフローラルの豊かさが際立っているように感じる。
ドライダウンはなんとなく予想通りに香るというか、パチュリ+ムスクがメイン。パチュリがやや強めなおかげでファインフレグランスらしさはしっかり出ている。持続は4、5時間くらい。
グリーン→ピンクローズ→パチュリムスクという大まかな流れは2020年発表の「ミスディオール ローズ&ローズ」とそう変わらないが、メイン素材であるローズをグレードアップさせ、ベースのウッディの割合を増やすことで高級フレグランスらしさを演出した言わばセルフカバーのような香水だ。現行のピンク色のミスディオールシリーズの中では「中々力を入れたな」と感じる香りではある(そもそも価格が違うしね)。
難点を言うなら、このフレグランスの命と言えるミドルのローズの香りが枯れるのが早く、わりとすぐにパチュリムスクに呑まれてしまう。数量限定品ではあるがかなりの数を生産しているようなので、そこまでのクオリティを要求するのは難しいかもしれないが。
度重なる既存フレグランスのリフォーミュラにフランカー乱発、さらにJOY by Diorの件もあってか、香水好きの間では「Diorの香水をめちゃくちゃにした」と言われてしまうこともあるフランソワ・ドゥマシーだが、個人的にはそうは思わない。いくらブランドのトップパフューマーといえど、Dior自体はドゥマシーのブランドではないし、ゲランの五代目ティエリー・ワッサーも「フランカー乱発が嫌でもクビになりたくなければせねばならない」とインタビューで語っている。きっとマーケティングチームや上からの指示(流行をおさえて今どきの男/女にウケるモン作れ、高い材料は控えろ、等。あくまで私の想像だが)に最大限答えていたのだろう。どちらかというと、自分がトップパフューマーとして表舞台に出るより、シャネルに所属していた頃のように黙々と裏方に徹する方がドゥマシーには向いていたのではないかと思う。昨年、ディオールのトップパフューマーの地位はフランシス・クルジャンに引き継がれまもなくクルジャン率いるディオールフレグランスが展開する。手始めにボアダルジャン、オーノワールがリフォーミュラされ、コロンブランシュが再リリースされるそうだ。新しいディオールフレグランスが楽しみな反面、ドゥマシーの退任を寂しくも感じた。
トップ:ゼラニウム、グリーンノート
ミドル:グラースローズ
ベース:ベチバー、ガイアックウッド、ムスク、パチュリ
調香師は、フランソワ・ドゥマシー。
(fragranticaより)
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2022/4/29 15:17:03
ムスクウートルブラン=白よりも真っ白なムスク、着想元はロダンの「接吻」。ラールエラマティエールのシリーズは香水自体に着色がされているものばかりだが、このムスクウートルブランだけは無色透明。これの発売に合わせてホワイトのネックコードが追加され、有料のキャッププレートも限定発売された。プロモーションにも中々気合の入ったムスクウートルブランはどんな香りなのだろうか?
もったりとして、ミモザやヴァイオレットリーフを思わせるようなウォータリーなグリーンからスタート。その青さと対比して、みずみずしいベルガモットの甘さが感じられる。そしてそれらを淡く白いムスク調の香りがひとまとめにしている。
ウォータリーグリーンが落ち着くと、フローラル感が増してくる。スッキリと明るいネロリにアーシーなアクセントの効いたオレンジブロッサム、「ウートルブラン」の名の通りの白い花の香りだ。構成にはローズとも記載があるが、ローズ感はほぼ出てこないと思う。
ドライダウンには、トップから続いていたムスキーな香りがややパウダリーに傾き、そこにほんの少しサンダルウッドの暗いウッディが加わってフィニッシュ。トップからミドルまでで約二時間、ドライダウンは三時間ほど。
この「ムスクウートルブラン」だが、発売前のかなり早い段階で2020年の数量限定品「ルールブランシュ」のリサイクルだという情報が流れ始めた。せっかく両方持っていることだし、よく比べてみた。個人的には、そっくりさん度は80%くらいだと思う。
トップ
ルールブランシュ(以下LHB)…無色透明の水を思わせるようなアクアティックなアコード
ムスクウートルブラン(以下MO)…もったりしたウォータリーグリーン
ミドル
LHB…ミュゲのようなスッキリ系グリーンフローラル
MO…オレンジブロッサムの力強いホワイトフローラル
ドライダウン
LHB…ムスクに、無脂肪乳のようなあっさりタイプのミルク、サンダルウッド少々
MO…パウダリーなムスクとサンダルウッド
たしかに香りの印象自体は似ていて、ムエットに付けたものを放置してみるとほぼ同じ香りであったが、実際に付けてみると上記のような違いを感じた。ルールブランシュが好きで普段使いしたいが限定品であることがネックの方、買うチャンスを逃してしまった方にはいいかもしれない。
トップ:ホワイトムスク、ネロリ、アンブレット(ムスクマロウ)
ミドル:オレンジブロッサム、アイリス、ブルガリアンローズ
ベース:ミルク、サンダルウッド、ホワイトアンバー
調香師は、デルフィーヌ・ジェルク(fragranticaより)。
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2021/1/29 13:59:52
フランカー乱発and度重なる調香リニューアルでどれがどれだかすっかりわからなくなってしまっているミスディオールのシリーズ。売る方も大変なのでは?日本ではやはりこの「ブルーミングブーケ」が一番人気らしく、店頭でも誇らしげに飾られている。同じ香りのボディミストやヘアフレグランス、ハンドクリーム等が展開されていることから、相当人気のよう。「ミスディオール ブルーミングブーケ」は元々、「ミスディオールシェリー ブルーミングブーケ」という香水のリフォーミュラ。その「シェリー ブルーミングブーケ」があまりにもアジア受けが悪く、再調香されて今の「ブルーミングブーケ」の香りになった(ゲシュタルト崩壊しそう)。
スプレーすると、マンダリンとベルガモットのジューシーなシトラスが広がる。苦味や酸味よりも甘い果汁感に重きをおいた香り。ぱっと晴れやか、爽快なスタートだ。
二、三分もするとすぐにミドルへ。甘酸っぱいフローラルブーケの香りだ。かわいらしいピオニーの甘さと、ヘディオンのジャスミン調の香り、そしてアプリコットのフルーティーなアコードが混ざったフルーティーフローラル。淡いピンク色のジュースにぴったり。どう?嫌いな人いないでしょ?というフランソワ・ドゥマシーの自信が伺える。よく言えば軽やかで嗜好性が高く、悪く言えばわざわざディオールで買わなくてもありそうな香り。ここの香りが約一時間続く。
ドライダウンは、ほぼホワイトムスクだと思う。ソーピーで清潔感重視、ここもスキがないくらい嗜好性が高い。ほんのちょっぴりだけ、パチュリでファインフレグランスらしさを足しているようにも思える。ドライダウンは約二時間ほどで、全体的な持続は三時間程度。
トップ、ミドル、ドライダウンすべて最大公約数を外さない嗜好性の高いアコードで固め、ハンドクリームやヘアミストのようなサブアイテムも揃えたまさに完全武装のミスディオール。軽い香りなのに最強装備。スキがない。これで売れねぇならやってらんねぇよ、というドゥマシーの心の声が聞こえそうだ。
香水好きをやっていると、どんどん香りの守備範囲が広くなってくる。シトラスやソープ調の香りしか好きでなかったのが、オリエンタル、濃厚なフローラル、フゼア、シプレ…それまで良さが理解できなかった、いかにも「香水っぽい」香りへの造詣が深くなっていく。ところが日本では、そういった香水らしい濃厚で複雑に変化する香りよりも、ライト&シンプル、ひと吹きでいい香り!と感じて気軽にまとえる香りの方がウケがいい。ブルーミングブーケは、その条件を満たす。
しゅっ、とスプレーすれば、柔らかなフローラルにソーピーなムスク。持続も適度。
どこから見ても完璧に「いい香り」だ。
トップ:シチリア産マンダリン
ミドル:ピンクピオニー、ダマスクローズ、アプリコット、ピーチ
ベース:ホワイトムスク
調香師は、フランソワ・ドゥマシー。
(フレグランティカより)
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