






















doggyhonzawaさん
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2025/1/18 11:26:16
「リンゴの香り?え?全然しないんだけど。」
ニナの香りを肌にのせるたび、いつもそう思っていた。自分の鼻がおかしいのか?そう思って何度も試してきた。そしてやっとわかった。
結論。ニナは「リンゴの香り」の香水ではない。これは「リンゴの酸味」をうまく取り入れた香りだ。
ニナリッチの香水といえば、真っ先に思い浮かぶのが可愛いリンゴ型ボトル「ニナ」だろう。そしてニナと言えば判で押したように「リンゴの香り」と人は言う。けれど残念ながらニナは、リンゴの香りそのものを再現した香水ではない。
ニナは、調香師オリヴィエ・クレスプが大きく関わって作られたオードトワレだ。というのも他に今をときめくヴィトン調香師ジャック・キャバリエらの名もクレジットされているからだ。つまり共作。その中でメインを張ったオリヴィエは香りの魔術師として知られ、「ライトブルー」や「エンジェル」など数々の名作を手掛けてきた。彼は、甘美でありながらも爽やかさを持つ独自のフレグランスとしてこの香りの創作に取り組んだという。
では、リンゴの香りじゃないニナとは、どんな香りなのか?
ニナをスプレーする。アルコールの揮発を待って嗅ぐ。香りの幕開けは、イタリア産アマルフィレモンとカイピリーニャライムのきらめくような爽やかさから始まる。それは確かに朝日のようにまばゆく、はじけるような序章だ。酸味とスパイスが強い。ただどこかにこっくりとした甘味がある。この時点で、まずリンゴの香りとは思えないトップ。
このシトラスの輝きは5分ほどして柔らかなハートノートへと移り変わる。感じられるのは強い酸味とほどよい甘さ。フルーティーな香りだ。ここで出てくるのがグラニースミスアップルと少しのキャラメルノート。そこにほんのりベルベットのようなガーデニアが潜んでいる気配。もしも「リンゴ」を感じるならこのミドルだけれど、リンゴとは言い切れない。そこにはこんな秘密がある。
このニナで使用されたグラニースミスアップルとは、確かにリンゴ香料だ。だがこれはとても酸味の強い黄緑色のリンゴで、生食には適さない種だという。そこでキャラメリゼしたりシロップ漬けにしたりして甘さを加え、アップルパイやタルトなどのスイーツに用いられるのが一般的だそうだ。つまりニナも、リンゴ自体の香りを再現したのでなく、キャラメルコーティングした「トフィーアップルの香り」を香りの部品の1つとして用いたということだ。
だからこのミドルで「ああ、これリンゴね。」と感じる方はよほど鼻がいいか、リンゴ系スイーツに詳しい方かのどちらかだろう。もとよりオリヴィエはリンゴの香りを創ろうとしたのではない。高音部に感じられるスッキリした酸味、これこそがニナのリンゴノートであり、それはニナの香り和音の一部でしかない。他に中音部のガーデニア&ムスクのソーピー、低音部にカラメルとウッディ、それらが重なり合ってニナの香りハーモニーを形成している。
このミドルは1時間ほどで和らぎ、やがてムスクのソーピーとウッディが強くなるとラスト。ラストは清潔感と香ばしさを伴ってドライダウン。全体で2、3時間程度。
ニナの香り立ちは控えめでありながらも印象的で、どこかの果樹園の記憶のように感じられる。他のグルマン系フレグランスと比較しても、甘さと爽やかさのバランスが絶妙で、昨今のフルーティー香水のように過剰に甘ったるくはない。発売から時は経っているが、今も十分魅力的なフレグランスだと思う。
もともとニナリッチというブランドは、1932年にイタリア出身のマリア・ニナ・リッチとその息子ロベルトによってパリで創設された。イタリアはシトラス王国。そして実はリンゴの生産も世界的に有名だという。調香師オリヴィエは、そうした「イタリアの風」をパリ発の香水に上手く取り入れることで、遊び心と洗練を同時に味わえる香水を創りあげた。
誘惑と魅力の象徴であるリンゴ型のボトルには、人生の甘美な瞬間を楽しみ、夢見る人々のための香りが詰められている。この香りを纏うと、太陽の光が満ちあふれる果樹園を散策している情景が浮かぶ。
空気には清々しさが満ち、濃い緑の葉が風に揺れている。空の彼方には紺碧の地中海が水面を輝かせている。テーブルにはできたてのリンゴタルトが運ばれてくる。それは自然の美しさと命の豊かさを一瞬に切り取ったような光景だ。
リンゴの酸味とキャラメリゼの甘さ、そこにフローラルやウッディを添えた香り。
それがニナ。リンゴ型のボトルに詰めたイタリアの風。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はX(旧Twitter)でも時折つぶやいています。香水好き… 続きをみる