doggyhonzawaさんのMDCI Parfums(海外 フランス) / Un Coeur en Maiへのクチコミ |
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- doggyhonzawaさん 認証済
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- 55歳
- 乾燥肌
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2021/5/8 12:16:11
アン・クール・アン・メイ。「5月の心」という名の香水。5月の心と聞いて真っ先に思い浮かぶのは「5月病」だ。環境が変わってあわただしく4月を終えた頃、軽い燃え尽き症候群とも言うべき停滞期を迎えることはよく知られている。
それは、人や環境の変化になかなか慣れず、心が色をなくしてしまうからだ。
そうなったらまず顔を上げることだ。コンクリートと人工物だらけの空の向こうを思いやってみる。そこには新緑の葉をつけ始めた木々が生い茂り、風にそよぐ花々と生き物の目覚めがあるはずだ。目を閉じて、その自然な色の中に自分を置いてみる。出かけられなくてもいい。香水を肌にのせてみるだけでもいい。
果実が 花が 草や木の香りが 自分に色を取り戻してくれる。
そんなとき、パルファムMDCIのアンクールアンメイは、優しく心に寄り添ってくれる。実際のフランス語発音だと「アン・ケイホウメイ」に近いが、ここでは「世界香水ガイド2」の日本語表記にならう。
パルファムMDCIの香水は2つの点で特徴的だ。1つ目は「採算度外視で優秀な調香師に好きなように香水を創ってもらう」こと。2つめは「香水はボトルが芸術的でなければ!」という考えから、豪華なルネッサンス風彫刻を思わせるボトルヘッドを作っていてその分値段が高いこと。それでもこの2点は他のブランドでも散見される仕様ではある。では、パルファムMDCIのすごさは何かというと、それは香水通の方々を唸らせるほどの「作品力」にあるのでは、と感じている。
辛口香水批評で有名なルカ・トゥリンは「世界香水ガイド2」においてパルファムMDCIの2つの作品に最高評価を与えているし、先頃お亡くなりになったオランダの超有名香水店の店主リアンヌ・ティオさんも、店舗の壁のど真ん中にパルファムMDCIを鎮座させるほど高く評価されていた。高額な香水にも関わらず、この両名が太鼓判を押している。これは作品の優位性を評価してのことに他ならない。
では、アンクールアンメイとはどんな香りなのか?
アンクールアンメイをプッシュする。その瞬間感じられるのはベルガモットの酸味、それを上回るメロン風のアクアティック&ソルティな風味だ。さらに奥からじんわりとしたグリーンなガルバナムの苦味も感じられる。しっとりしたフルーティー&グリーンな開幕。春のぬるびた水、穏やかな風、足に踏まれた青草の匂いが立ちのぼるような萌える春のイントロ。
5分もすると、メロン風の香りの奥から黄色いミモザの花の香りがしてくる。花粉っぽい黄色のぼんぼりの香り。そこに、低いところからヒヤシンスの強い水色の香り、ゼラニウムの冷たい香りが重なってくる。さらにスズランのグリーンなフローラルがかいま見え、ふいにダマスクローズのふんわり清涼感ある香りが鼻をかすめるようになり、春の花がガーデンのそこかしこに咲き乱れていることを知るようになる。
このミドルのフローラルは、花々の彩りに満ちて、とても柔らかくシームレスだ。
調香師は、ゲランの血統を受け継ぐパトリシア・ニコライ。アンクールアンメイの咲き乱れた花々は、どれも3月から5月あたりまでに見られるフランスの「春の花々」だ。してみると、それらの香りの移り変わりを1つのボトルに閉じこめ、春の野の花の香りが次々に現れる作品にしたかったのかもしれない。穏やかで心にスッとなじむ花々の香り。実はこういう静かなフローラルこそ作るのが難しいと聞いたことがある。生花のエッセンスを集めただけでは、決して生花の香りにはならないそうだ。類いまれな知識と調香技術があってこそ、自然な花の香りに近い作品ができるのだという。
つけてから5〜6時間シングルノートのように香り続ける。EDPにしてはひかえめなグリーンフローラルだが、絶えず柔らかく、さまざまな花の色が香る「5月の心」。この時期メンタル弱っている方には特におすすめしたい優しい野の花の香りだ。
「香水がなければ 肌は静かです」
先述の故リアンヌ・ティオさんの言葉だ。この言葉の意味に思いを寄せる。春。自分をとりまく環境が大きく変化し、何色に染まったらよいのかつかめずに戸惑いや孤独を感じやすい時期。それでもリアンヌさんは言う。「香水をつけることは、あなたの個性を外の世界への声明として表現する方法です。」そうだ。何かに無理に合わせるのではなく、自分はこれが好きだ、こんなキャラクターだ、そう外界にアウトプットしてみる。肌から好きな香りを無言で発信してみる。
遠く、まだ見ぬ美しいガーデンを思う。咲き乱れる花々と新緑の中を散策するとき、心は軽やかに、そして七色に染め上げられるだろう。
それが5月の心。どこまでも高くあれ。華やいであれ。
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