doggyhonzawaさんのセルジュ・ルタンス / Gris clair…(淡いグレー)へのクチコミ |
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- doggyhonzawaさん 認証済
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- 54歳
- 乾燥肌
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2020/4/4 17:40:23
世界が闇に包まれている。人々は日々のニュースに怯え、不安は加速し、疑心暗鬼が世界をさらに暗くする。
もしそう感じることがあったら、おだやかでライトな香りを探してつけてみるといい。よい香りは人の心を助ける。心が強くなれば身体も強度が上がる。免疫力は心が上げていくものだ。
セルジュ・ルタンスのグリクレールは、そんなとき試してみてほしいラベンダーの香水だ。グリクレール、「淡い灰色」と名付けられた香り。
グリクレールは2007年にリリースされたオードパルファム。2018年に一度廃盤となったが、2019年にセルジュ・ルタンスのコレクション・ポリテスという新ラインが登場し、その中の6作品に加えられて復活している。モロッコの高い山に自生する淡いグレーのラベンダーをモチーフにしたウッディフローラルムスク系の香りだ。
ラベンダーといえば、アロマテラピーでも効果が高い香りの一つとして知られている。ラベンダー香水の場合は、スッキリした酸味をもつリナリルアセテートが多いか、カンファー様の清涼感があって低音で甘いリナロールが多いかで大体の香りが決まる。では、グリクレールはどんな感じだろうか。
グリクレールをプッシュする。以前の縦長ボトルに比べて、コレクションポリテスのボトルは透明なスクウェアタイプで清潔感が増したイメージ。波のような模様が配されていて光を受けたときの反射が美しい。
スプレーした瞬間に広がるのは、スッキリしたラベンダーの香り。一緒に甘いアンバーとクマリン系の苦味も出ている。酸味があってふんわりしたラベンダー香なので、リナリルアセテートが強い印象。リナリルアセテート系は人の心を晴れやかに元気にする。対してリナロールが強い場合は人の心をゆったり落ち着かせる作用が強くなる。グリクレールのラベンダーは、人の心を持ち上げてくれる爽やかな香りだ。
3分もすると、ラベンダー本来のシャープな清涼感が、より明確になってくる。ただ他の香料の主張も強く、それほどラベンダーが強いという感じではない。クマリンの粉っぽさ、トンカビーンの濃厚なコクが出てきて、いわゆる男性香水のフゼア系を思わせるミドル。ラベンダーとトンカビーンとアンバーがそれぞれ2:6:2の比率といった感じ。ラベンダー以上にトンカビーンの甘さとふくよかさが目立つ印象。
だからだろう。この香水に関しては、トップでラベンダーを感じたあとにメンズ香がして苦手という女性の声をよく聞く。構成的にミドルにフローラルがないので、こんもりとした温かみあるミドルがメンズの雰囲気に感じられやすいのかもしれない。
展開は、トップからミドルへの変化以外、香りがほぼ変わらずに減衰してゆくシングルノート系のパターン。ラストはトンカビーンとアンバーの甘さを伴いつつ、イソEスーパーのような心地よいウッディノートでしめくくられる。持続時間は4〜5時間くらい。
全体的に見ると、ベルガモットとオークモスを抜いたフゼアの骨格をもった香水と言っていいと思う。よくある香りと言えばよくある香り。それでも、現代的な嗜好に合わせてアクの強い香料をかなり引き算している点は興味深い。特にモス系のギリギリとした苦味を排除している点が特徴。ゼラニウムのような低音のフローラルも若干感じられるが、全体的にはスッキリしたラベンダーの清涼感と太陽のような温かみを感じる香りに仕上がっている。
この香りを創らせたセルジュ・ルタンス氏は、モロッコのマラケシュに住んでいるという。まばゆい太陽と大西洋、地中海に囲まれ、南に広大なアトラス山脈とサハラ砂漠を望むモロッコ。彼はそこで出会った文化や風景、スパイスを香水のクリエイションに数多く落としこんでいる。このグリクレールにも、アトラス山脈の岩場に力強く咲くラベンダーの姿が思い描かれている。
遠く光る太陽。吹きすさぶ風。不毛の地をさまよう花粉は、岩と岩の間に舞い降りた。苛酷な環境に負けず、灰色の花を咲かせるために。
ただそこに生きる。その強さ、たくましさ。
「世界が闇に包まれている」そう思ってうつむいてしまうことが、時としてある。「先行きが見えない。どうすればいいかわからない」と、視界がグレイで白黒決められずに頭を抱えてしまうことも。それでも。
世界は常に光に満ちあふれている。わたしたちが顔を上げてさえいれば。
アトラスのグリクレールは今日も空に向かって ただ生き続けている。
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