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doggyhonzawaさん
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TOBALI / SMOKE FLOWER

TOBALI

SMOKE FLOWER

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2019/12/28 16:51:50

「君は今 駒形あたり 時鳥(ほととぎす)」

今から360年前、冬の夜、隅田川をゆく屋形船の中から町の灯を眺める一人の花魁(おいらん)がいた。吉原から乗せられた船が駒形を通るあたりで、彼女の胸にかつて春に自分が詠んだこの句が去来した。愛しいあの人は今いずこに。女の名は高尾太夫。吉原一の遊郭、三浦屋最上級の遊女である。

この高尾は2代目であり、俗に仙台高尾とも呼ばれていた。その名のとおり、三代目仙台藩主伊達綱宗がいれこんで、彼女の体重と同じだけの金を積んで身請けを申し出たとされるいわくつきの花魁。だが、彼女の心は別の男を思っていた。屋形舟の船べりで、自分に背中を向けている高尾の白いうなじを憎々しく見つめている男こそ伊達綱宗であった。

綱宗が6億円近い破格の身請け金を出すと言ったにも関わらず、「郭(くるわ)の女は金ではござんせぬ」と拒否され、綱宗の心は怒り心頭に達していた。無理に乗せてきたとはいえ、にべもない態度の高尾にキレた綱宗は、ゆらりと彼女の背後に近付くと、その黒髪をつかんで暗い水面に突き落とし、刀で吊し斬りにしたという。

これが世に言う伊達騒動の元となった「高尾太夫の吊し斬り」である。実際はフィクションのようだが、虚実入り乱れてさまざま言い伝えられており、詳細は不明だ。トバリのスモークフラワーは、そんな高尾太夫をイメージした香りだという。ではいったいどんな香りなのか?

御神酒をデザインしたという白ボトルを取り出してスプレーすると、まず感じられるのはツンとした酸味のあるスモーキーな香りだ。柑橘ミックスとピンクペッパーの酸味か。同時にふんわりとした柔らかいジャスミン様のフローラルが感じられる。ややグリーンなファセットを出しているのでこれがクレジットにあるスズランのアコードだろう。「煙の花」のネーミングとは裏腹に爽やかなイントロ。このトップから連想するのは春の景色だ。桜の花弁がはらはらと舞い散る暖かい日射し。昨夜愛し合った自分の男が朝方店を出て帰り、もの憂い春の暁の光の中、ホトトギスの声を聞いて「あの人は今頃、駒形の渡しのあたりだろうか?」と夢うつつの中思う高尾のイメージ。

5分後、明るい柑橘が薄れ、次第に香りは暗い色を呈し始める。赤い大門が暗闇の中に浮かび上がり、朱塗りの格子から遊女の白い手が男を手招きする夜のイメージ。スズランのグリーンなフローラルの下からほんのり甘いバナナの熟した香りのようなファセットや少し煙たい乾いたスパイスの香りがふわふわと見え隠れする。香り立ちは穏やかだが、とらえどころのないマイルドスパイシーウッディな香りだ。香りの五味で言うなら甘味2、苦味2、辛味2、酸味3、塩味1といった具合。わずかにスモーキーなウッディも背後に感じられ、全体的にスッキリした酸味の強いインセンス香といった感じのミドルだ。

ラストは思いのほか早い。お風呂上がりに入浴剤のジャスミンがほのかに残っているような香りになって消失。全体で4〜5時間程度。おそらくこのラストの酸味ある香ばしいウード系の香りが日本香堂社とタッグを組んで開発したHidden Japonism 834というベース香だろう。マイルドな酸味を呈しながらドライダウン。

全体に、スモークというほど煙たくなく、フラワーというほど花の香りもしない。ブランド説明にある「タバコの香り」も「極彩色の花」というのもどこか違う。酸味あるウッディに支えられたマイルドなスズラン、そんなイメージの方が近い。花魁の高尾をイメージしたわりには白粉のパウダリー香にしなかった点はひねりがあっていい。スッキリして使いやすく、それでも付けるたびに奥から細やかな香料が複雑に感じられて、繊細でつかみどころのない香りだと思う。そしてそれはそのまま、ミステリアスな高尾太夫の横顔に重なる。

高尾には、将来年季明けしたら一緒になろうと誓った浪人がいた。名を島田重三郎という。毎晩客を相手にしつつも、高尾は彼と結ばれる日を待ち望んでいた。綱宗の身請けを断った彼女は命の危険を感じ取っていたのだろう。ある日自分が創った香りを重三郎に渡して言ったという。「もし自分に何かあって亡くなることがあれば、そのときはこの香を焚いて自分を呼び出してほしい」と。それは古来より「反魂香」と呼ばれ、その香を焚くと煙の中に亡くなった者の姿が現れると言い伝えられてきた香り。そして事実、その夜は訪れた。

冬の夜、隅田川。一艘の屋形舟が暗い水面を滑っていく。岸辺の灯が水面にゆらゆらと揺れている。艶やかな花柄の着物を羽織った花魁の白くはだけたうなじに夜風があたり、後れ毛をそよがせている。

霧が出てきたのだろう。煙のような夜のとばりが下りた。高尾の花の着物から反魂香が闇夜に匂い立っている。

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