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doggyhonzawaさん
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フレデリック マル / ロー ディベール

フレデリック マル

ロー ディベール

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:10ml・5,720円 / 30ml・15,730円 / 50ml・20,020円 / 100ml・28,600円発売日:- (2018年11月追加発売)

5購入品

2019/12/21 23:59:36

「冬の水 一枝の影も 欺かず(ふゆのみず いっしのかげも あざむかず)」

俳人、中村草田男の名句。フレデリック・マルのロー・ディベールの香りを感じるとき、いつもこの句を思い出す。「冬の水」と名付けられたこの香水は、厳寒の冬に冷たく横たわる、鏡のような水面のたたずまいを感じさせる。

「香りの出版社」フレデリック・マルの香水の特徴は、調香師の名を前面に出し、何物にもとらわれない作者の創造性あふれる作品を世に送り出すこと。ローディベールは、2003年にジャン=クロード・エレナによる調香でリリースされた。現在50mlボトルが税込20020円。それより安価なミニボトルも出ている。

ジャン=クロード・エレナといえば、香水に詳しくない方もわりと知っているブルガリのオパフメオーテヴェール(1992)やエルメス専属調香師として「ナイルの庭」などをリリースした凄腕調香師だ。そんな彼が、エルメス入社の少し前に試行錯誤しながら創っていたという「冬の水」、それはいったいどんな香りなのか?

ローディベールをプッシュする。その瞬間、最初にたちのぼるのはやわらかなベルガモットのシトラスノート、紅茶のアールグレイの爽やかな風味だ。同時にふわりと出てくるのがうす紫色のスミレの香り。ああ、アイリスのヴァイオレットに傾いてる系の香りだなという感じがする。一瞬、アプレロンデを思わせるスミレの香りがとても印象的なトップ。

3分もせずに下から感じられるのは、わずかにウォータリーな気配を感じさせる苦味。同ブランドから2000年にエレナが出していた「雨のアンジェリカ」で用いられていたキー素材、アンジェリカの風味か。内省的なスミレの香りとアンジェリカのやや湿った苦味はどこか冷たさを感じ、冬の水を思わせるには十分なイントロだ。

10分ほどすると香りはミドルに移る。このへんの展開はとても繊細で美しい。スミレに傾いていたアイリスの下から桜餅のような苦味のある香りが出てくる。クマリンほど白い粉感がないのでビターアーモンドだろう。この杏仁豆腐のような独特の苦味感がアンジェリカからつながり、パウダリーなアイリスと相まって穏やかでしっとりしている。

空気がキリリと冷え込んだ放射冷却の朝、湖の水面の上には放射霧と呼ばれる幻想的な霧が立ちこめる。それは一気に冷えた地表近くの大気が、それよりも温度の高い水にふれるからだ。冬の水は、ときに大気の冷たさよりも温かいことがある。ローディベールは、そんな冬の朝の澄んだ霧のような香りをたなびかせる。

ただ。

この柔らかくしっとりとした美しい霧は、香り立ちがとても淡く、そして持続時間もとても短い。まるで冬の太陽がゆっくり山際に顔をのぞかせた瞬間に、スッと消えてゆく朝霧のよう。アーモンドノートとパウダリーなアイリスに、やがて黄色い花粉の匂いのようなヘリオトロープが混じった香りは1〜2時間でそのまま消失してゆく。

かなり調べても香料濃度は確認できなかったが、この香りに関していえば他のマル作品よりも香料濃度はうすいと思う。オーデコロンからオードトワレレベルかと。だとすれば、他のマル作品よりやや安価な設定も納得できる。「水」を表すためにあえてアルコールを多めにし、主張の弱い柔らかい香り立ちを目指したという見方もできるだろう。それでもこの淡さは日本人的には使いどころは多いかもしれない。値段と香り立ちの淡さ、このあたり評価の分かれるところだろう。

全体的に見ると、ふんわりとしたベルガモットのシトラスノートで始まり、アイリスのヴァイオレット風パウダリー、ドライで苦いアーモンドの香りが感じられてきて、ラストにヘリオトロープの黄色い花粉のパウダリーで終息していく展開。それらが織りなす静謐な水のアコード。それは、エレナによれば「冬のお湯の香り」だという。その意味は不明だが、冬だからこそ温かく感じる水のモチーフ、蒸発する霧や湯気から感じたイメージなのかもしれない。

明鏡止水という言葉がある。心に邪念がなく澄みきった水のように一転の曇りもない様子を表す言葉だ。冷え込んだ冬の朝、昇った太陽が山あいの湖に光を投げかけると、霧は煙のように消え失せて、周囲の山容を鏡のように映した美しい湖面が姿を現す。樹の枯れ枝が湖面に映る。それは冬を越すために全てをそぎ落とした骨のごとき姿。

冬の水はその姿も影もどこまでも残酷なまでに映し出す。その虚飾を廃した厳しさを草田男は「欺かず」の下句に込めたのだろう。自然と自分をあるがままに受け止めた作者の生きざまを表した言葉だ。枝の霜がとけて水滴となって流れ、枝先から垂れている。この涙のようなひとしずくもまた、まごう事なき冬の水。

ローディベール。

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