doggyhonzawaさんのAbel(アベル) / ホワイト ベチバーへのクチコミ |
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- 53歳
- 乾燥肌
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2019/11/30 16:25:10
「旅に病んで 夢は枯れ野を かけめぐる」
松尾芭蕉、辞世の句。アベルのホワイトベチバーの香りに包まれるたび、なぜか自分はこの句を思い浮かべる。その人生を俳句と旅に費やした人、芭蕉。彼が病床にあってなお求めた旅とは一体何だったのか?そしてなぜホワイトベチバーが芭蕉の句をイメージさせるのか?
アベルは、2013年にオランダで設立された香水ブランドだ。目的は「世界最高の天然香水を創ること」。ワイン醸造家であるフランシス・シューマックは、刻々と変わり続ける葡萄の香りのように「生きている香水」を創るためにこのブランドを起こしたという。ホワイトベチバーはその1本で「フレッシュで爽やかなウッディーノート」と紹介されている。
ホワイトベチバーをつける。その瞬間、柔らかく清らかなシトラスの香りに包まれる。同時に、穀物由来のアルコールのほんのりした甘さのような感じも。そこにわずかなミントの清涼感がかすめるトップ。
1分ほどでミントは消えてシトラスの個々の香りが明確になる。ベルガモットの爽やかな酸味とコク、そしてキンとグリーンな苦味。この甲高い青い苦味は、クレジットによるとライムのようだ。このライムとわずかなミントがかなり早く揮発して、重たい香り分子を上へと引き連れていこうとする。ベルガモットの爽やかな香りの下から茶色いスモーキーな香りの片鱗が見え隠れしてくるのはそのせいだろう。
確かに天然香料が多く使われているようで、柔らかく穏やかな香りがめまぐるしくふわふわと変わる展開。どこかアロマテラピー系のブレンド香水を思わせる。イメージ的には、無印良品のアロマコーナーにあるブレンドコロンのような感じ。
10分ほどすると、ライムもベルガモットもとんで、次第に茶色の香りが明確になってくる。少し焦げたような温かみのある香りだ。1つは確実にジンジャー。少し辛みがあるじんわりしたホットな風味だ。そしてその下から別のアーシーな香りが顔をのぞかせてくる。これがベチバーの香りだ。
ベチバーは熱帯原産のイネ科の植物で、精油は根茎から抽出される。土から根を引き抜いたときのグリーンでシャープな土の香りがするので分かりやすい。昔はシプレ系の調香によく使用されたが、どっしりとした土系の乾いた香りなので、次第にメンズ香水のベースに使われるようになった。それも最近ではあまり使われなくなってきている。
20分ほどすると、茶色の香りがもう少しこげ茶色になってきて、ロースティーなウッディ香になってくる。まさに、昔ながらの見事なピラミッド型展開。「これ本当に合成香料を使ってないな」と思うほど、香料の揮発と入れ替わりが早い。つけて30分でラストのウッディが香るのだから。
このラストの香りこそベチバーの乾いた土っぽい香り。秋、緑の草原がまだそこかしこに残りつつも、枯れ草が黄色や茶色に変わり始め、傾いた秋の黄金の日差しに照らされてカサカサと風に鳴っているような寂しい風景が思い浮かぶ。晩秋の荒れ地は、なぜか人の心に忘れられない印象を残す。このベチバーの匂いは晩秋の荒野を思わせる。
そしてここからはもうほぼ変化せず減衰していく。少し焦げたような、それでいてレモングラスのような酸味を残した乾いた大地の香りが静かに流れ、消えてゆく。持続時間は大体5、6時間程度。
全体的な特徴をまとめると、クラシカルな香水同様、3段階ピラミッドに変化する香りだということが挙げられる。特に開始のシトラスの爽やかな香りが3分以内に消失して土っぽい香りに変化するので注意が必要だ。さらにそれに続くミドルもあっという間。開始10分以内にベルガモットもジンジャーも薄れて、あとは長い長いベチバーが何時間も続く。このウッディな後半はかなりマニッシュに感じられるだろう。若々しく爽やかな時間はあっという間に過ぎ、じんわりとした干し草のようなウッディがずっと続く展開。それはまるで人の人生の時間そのもの。
だから思い浮かべたのだろう。晩秋の大地の匂い。枯れ草や大樹の乾いた香り。そこをゆく一人の旅人の姿を。
松尾芭蕉の心には、齢を重ねるごとに漂泊の思いが募ったという。旅の中に人生を見いだし、人生を旅そのものと考えて、彼は庵をたたんで長い長い旅に出た。雲のように、風のように、自然に導かれるままに。だから、まだ見ぬ美しい風景と出会って句を詠むことこそが、彼の夢の続きだったのだろう。
ホワイトベチバーの香りに包まれるたびに、彼の辞世の句を思い出す。この自然な香りを感じながら、夕暮れの荒野で空の色が刻々と移り変わるさまをいつまでも眺めていたい、そう思った。
草の香に 夢は枯れ野を かけめぐる
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