doggyhonzawaさんのマドエレン / レッドムスクへのクチコミ - My@cosme

マドエレン

レッドムスク

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]

税込価格：-発売日：-

年度の変わり目は心が落ちる。桜が咲いて、だれもがインスタ映えを狙ってシャッターを切って微笑んでいても、どこかで誰かの心は落ちている。ドーンと深く沈んでいる。なぜなら４月のカレンダーが強制的に心機一転させようとするからだ。

落ちた時には２つの香りが心に効く。暗くて深くて自分の心の闇に寄り添ってくれる香りと、優しくてあたたかくてつい顔がほころぶ香りだ。そしてもしかしたらマドエレンのレッドムスクは、その２つの効果を同時に心に作用させてくれる稀有な香りかもしれない。

レッドムスク。そのまま受け取れば「赤いムスク」だ。同名ならザ・ボディショップから出ていた赤茶色のボトルの方が有名だろう。ボディショップのレッドムスクは、ムスクにホットなスパイスをブレンドしたタバコ系ムスキーだったけれど、マドエレンのレッドムスクはもっと深い。深くて淡い。けれどいつまでも心に不思議な余韻を残す。

マドエレンによると「赤をイメージした清潔感と艶っぽさが同居する肌なじみのいいムスクの香り。『恋人たちの香り』ともいう、近距離で香るフェロモンを模した香り」というのが売り文句だ。実際、マドエレンを扱うショップではこの香りが一番人気でよく売り切れになっている店舗もあるようだ。

ではそんなレッドムスク、どんな香りだろうか？

遮光性の強い濃紺のボトルからスプレーすると、まず広がるのは洋酒のような酔わせるアルコールの匂い。すぐに針葉樹の赤茶けた樹皮の香り、そして松やにの清涼感あるスパイシーな香りが一気に広がってくる。どこかラベンダーの青くささも感じる。そして木の根の匂い。ベチバーのようなスパイシーウッディも混じっているようだ。いきなり清涼感の強いアロマティック＆ウッディなので、レッドムスクというよりもグリーン＆ブラウンムスクといった印象を受ける。

南仏プロヴァンス地方の小さな村、サン・ジュリアン。そこで花や木・茎などから手作業で蒸留抽出する昔ながらの製法で作られる香り、それがマドエレンのフレグランスだ。もともと溶岩石やアカシアの琥珀に天然抽出オイルを沁み込ませたアイアンポット入りのポプリで有名なブランドだけに、実際に香水の印象もとても自然な感じが強い。

春先、眠っていた土に鍬を入れると、赤黒い腐葉土の香りがあたりに広がる。草と木の根と樹脂の強い匂いが混じる広大な荒れ地。レッドムスクのトップ〜ミドルはそんな雰囲気だ。

やがて１時間ほどすると、スパイシーな松やにやクローブ、樟脳っぽい香りが少し和らいで、ほんのりフローラルの甘さを伴ったムスクが顔をのぞかせてくる。このホワイトムスク系の香りは合成だと思うが、前半のクールでアーシーな香りが一転して、ややセンシュアルな香りに変わってくる。あたたかいベッド、ホットミルク、男性的なアンバーな体臭、そんなものが入り混じったようなムスキーな後半。このホットなムスクはちょっとヤバい。クローブのシビレ感が少し残っていて、時折切なくなるような甘さをのぞかせることがある。

過去を回想することもまた、ときに甘美な夢のごとし。苦い思い出もバックミラーに映せば、遠ざかるにつれ、いつしか苦笑いできる過去の絵になる。さながら、熱い紅茶に落ちた一片のプティットマドレーヌを食べた瞬間、過ぎ去りし日々の思い出が蘇ったというプルーストの「失われた時を求めて」の冒頭のように。マドエレンというブランド名はこの作品のマドレーヌに由来している。マドレーヌを触媒にして「時」が急に後戻りしたように、心はいつも何かに揺さぶられて時間を行ったり来たり、右往左往してしまいがちだ。

今年の春はましてそうだろう。年度の節目で物事がリスタートするだけでなく、元号が変わって時代が変わる春なのだから。旧態依然としていてはいけないと、どこか急き立てられるように新しい世界へ押しやられる気がしてしまう。心だけ置いていかれそうな気分になりやすい特別な春だ。

だからそんなとき、マドエレンのレッドムスクのような香りがいい。なぜならこの香りには暗い根の香りとシャープなアロマがあって人の心のダークサイドに寄り添い、後半は優しさを増して人肌のように温かいムスクで心をほぐしてくれるからだ。

南仏プロヴァンスの小さな村、サン・ジュリアン。見渡す限りのラベンダー畑。湿った腐葉土のスパイシーな匂い、木々の根と樹脂のシャープな香り、それらが柔らかな風にそよいでレッドムスクになったのだろう。

レッドムスクが心に効くのは、1本１本手作業で丁寧に作られているからだ。強くてあたたかいサン・ジュリアンの素朴な自然の香りがするからだ。

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