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doggyhonzawaさん
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ディオール / メゾン クリスチャン ディオール サクラ

ディオールディオールからのお知らせがあります

メゾン クリスチャン ディオール サクラ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:40ml・14,850円 / 125ml・31,680円 / 250ml・45,100円発売日:-

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4購入品

2020/3/28 21:43:17

花冷えの夜だった。「一緒に夜桜が見たい」とサクラが言ったので、彼女の誘いにしぶしぶ応じて、深夜の公園に繰り出していた。それでも、にわかに冷え込んだ夜気にあてられ、ぼくは来たことを後悔し始めていた。

そんな気持ちなどおかまいなしに、サクラは満開の桜を見上げながら、軽く鼻歌を口ずさんでいる。淡い光を放つ提灯が深夜の道行きをぼんやり照らし出している。「なあ、寒いからそろそろ…」そう言いかけたときだ。

「ね、ここにある桜って何本くらいあると思う?」彼女が見上げたまま言った。
「え…?そんな分からないよ。数百本ってとこかな?」

彼女の突然の問いの真意を探ろうと横顔をちらりと見る。サクラは夜桜を見上げて微笑んだまま、誰にともなく虚空につぶやいた。

「ううん。ここにある桜はね、1本しかないんだよ。この桜、全部ソメイヨシノでしょ?これ全部たった1本の木から増やしたクローンなんだよ。」
「クローン…?」
「そう。接ぎ木でね、人が増やして。だからみんな同じ木なんだよ。それで一斉に咲いちゃうわけ。」

驚いて空を見上げた。漆黒の夜空を埋め尽くすように、白く艶めかしい花が咲き乱れていた。不意に桜の花に襲われるような感じがして足をとめた。どこか苦味のある鋭い花の香りがした気がして、立ちくらみしそうになった。

「どうしたの?」
「あ、いや…なんか桜の花の香りがすごいなあと思って」
「桜の香り?…それあたしがつけてる香水じゃない?これ。」

そう言って彼女は左手首をぼくの顔の前に差し出した。ふんわりと柔らかくて、スッキリした苦味の混じった白い花の香りがした。

「あ、そ、そうかも。」
「これ、ディオールのサクラっていう香りだよ。いい香りでしょ?」
「あ、うん。そうだね。」
「でも気付いてなかったよね。いつも。」
「え?」

彼女は後ろ手にバッグを抱えたまま、ゆっくりとぼくの前を歩き出した。そして言った。

「ずっと…気付いてないよね。あたしが髪を切っても、どんな可愛い服を選んで着ても。で、もっと関心をもってほしくて香水をつけてても。あたし、いつもこの香水つけてたんだよ。この2年間。」

急に呼吸が浅くなった気がした。どこかにとんでもない忘れ物をしてきたような気がして。

「2018年発売。調香師はディオール専属のフランソワ・ドゥマシー。彼が日本の桜を見て、小さな白い花が何千もの木に咲き乱れている息を飲むような光景に圧倒されて作った香り。」

突然の独り言に二の句がつげないぼくの気配を確認して、彼女はさらに続けた。

「トップはグリーンノート。若葉の頃。ハートノートは日本の桜の香りをメインにジャスミンとローズ、それにきらめきを与えるヘディオン。花盛りのイメージ。そしてラストは…」

息苦しくなっていた。なぜ今そんな香水の説明なんて…、それよりさっき彼女の手首の香りをかいだときに、ブレスレットの隙間からのぞいていた真新しい傷…、あれは、まさかサクラ…。

「ラストは黄色いミモザ、紫のスミレ、そして石鹸のように消えてゆくホワイトムスクのアコード。それは春の訪れ。」
「サクラ、いったいどうしてそんな…?」
「急に香水の説明なんかするのかって?」
「いや、それもだけど、さっきの…」

手首の傷、それはためらい傷じゃないのか?その一言が言えない。言葉がのどの奥でつかえて胸がつまった。

「だって、知らないでしょ?あたしのこと。香水とかすごく好きなことだって」
「…え?そうだったんだ。ごめん、ぼくは…」
「ねえ、あなたは、いつも誰のことを思ってるの?」
「…えっ?」
「知ってる。あなたの中に、誰か忘れられない人、いるよね。あなたはずっとその人のこと見てる。あたしといても。こうして桜を見てても。」

不意にざあっと一陣の風が吹いた。漆黒の夜空に花吹雪が舞った。前を歩いていた彼女が振り返り、寂しそうに微笑んだ。

「あたしはその女(ひと)のクローンじゃないよ」

そのとき、ぼくははっきりと見た。幾千もの桜の花びらが雪のように降り注ぎ、その花弁の山にうずもれてゆくサクラの幻影を。それは一瞬の幻視なのに、どこまでも残酷に美しく、心に突き刺さった。

ふと我に返ると、もうそこに彼女の姿はなかった。ただ、どこまでも清らかで儚いうす桃色の香りがしていた。それは、スモモのように爽やかで、杏仁のように白く苦く、ふんわりとした淡いジャスミンのような香りだった。いつも隣で笑ってくれていた彼女のように優しく、それでいてどこかしらスミレのように影があり、どこまでもまっすぐ清楚な香りだった。

それはディオールのサクラの香りだった。

サクラの 匂いだった。

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プラダ ビューティ / プラダ オム オーデトワレ

プラダ ビューティプラダ ビューティからのお知らせがあります

プラダ オム オーデトワレ

[香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:50ml・15,400円 / 100ml・22,000円 / 150ml・25,300円発売日:2016/10/1

5購入品

2020/3/21 13:32:13

「人の顔は、90%左顔の方が美しい」そんな研究データがある。それは大脳が2つに分かれていて、感情や感性を司る右脳と論理的思考を司る左脳が、左右に交差して体につながっていることに起因する。そのため、左右の顔にも脳の活動影響が出やすくなるからだ。つまり

「顔の左側には感情が出やすく、顔の右側には思考が出やすい」

ということだ。とすれば、冷静沈着な思考が表れやすい顔の右側は表情の変化が乏しくなり、喜びや楽しみ、悲しみ、怒りなどの感情で大きく変化する顔の左側の方がいきいきとした表情になりやすくなる。だから相手の本音を知りたいなら、相手の左側の顔を見ればいい、つまり自分から相手を見た場合、右半分の表情を見るとよい、ということだ。

2016年にプラダからリリースされた男女のペアフレグランス、プラダ・オムとプラダ・フェムにもそんな興味深い顔がある。この2種類の男女の香りは、まずボトルの「顔」が面白い。

プラダ・オムはメンズ用香水。上から見ると円柱ボトルの一部分をそぎ落した半円柱に近い形状をしている。平面側にはシルバーのロゴをあしらい、それがラウンド状になった背面のミラー効果でさまざまに映りこむようになっている。曲面側はプラダお得意の黒いサフィアーノレザーを張り、ブランドの確固たる矜持をアピールしている仕様。このボトルデザインは秀逸だ。

外から曲面側を見ると、黒いレザー張りが質実剛健とした強気のマニッシュを表現。だが少し回転させて平面側から見ると、内側がキラキラ銀色に輝いて見えるという対比になっている。曲面と平面、黒レザーとシルバーメタル、この対比。女性用フェムは、この対比が白レザーとゴールドメタルになっているのも面白い。

男性版プラダオムは、肝心の香りも実にいい雰囲気。調香師はプラダ香水全般を手掛けてきたジボダン社のダニエラ・アンドリエ。名作グッチ・オードパルファム、ゲランのアンジェリーク・ノワール等を生み出し、最近ではミウミウやティファニー香水もリリースしている実力派だ。では香りの方はどうか?

プラダオムをスプレーすると、最初に感じられるのはややスパイシーなトップ。キリッとしたペッパー、涼やかなカルダモンのスパイスミックスだ。スーツ姿のできる男を思わせる辛口なイントロ。そしてすぐに広がるのはヴァイオレットの紫色の香りと白くパウダリーなアイリス。ヴァイオレットが強めで、背後からやや白粉の乾いた香り、といった雰囲気だ。

5分後、パチュリの苦みが効いたヴァイオレットが一気に花開いてメランコリックな雰囲気になる。このミドルは個人的にとても気に入っている部分だ。アイリスを用いた粉っぽい香りは多いけれど、ヴァイオレット香料を強く効かせている作品は最近あまり見当たらない。ヴァイオレットは暗くて低くてじんわり響く香りだ。少し飽きやすいところもあるが、ときに心が弱っているときや静かに自分を見つめたいときには本当に薬になる香りだと思う。

そんなヴァイオレットとアイリスを中心に、下から低音のフローラル、ゼラニウムがしっかり感じられるミドルが続く。冷静沈着で穏やかな微笑みをたたえたスマートな仕事ぶりの男性、そんな表情がうかがえる。

1時間ほどで香りは変わる。最後はほんのり甘いアンバーラストだ。アイリスのパウダリーの残香と、わずかにウッディべースも感じられながらドライダウン。全体の持続時間は2〜3時間。短めだ。トワレなので仕方がないけれど、オンタイムのビジネスマンにはこれくらいの濃度が使いやすいだろう。価格も100mlで1万円前後の良心的設定なので、気兼ねなくタッチアップして使えるよさがある。香水は安くていい物をたくさん使えるにこしたことはない。特にメンズは。

プラダが打ち出したペアフレグランス、このプラダオムとプラダフェムは、カップルで使っても互いの香りがナイスバランスで溶け合うように設定されているという。南国のエキゾティックな花々をあしらったフェムは「感情・感性・美」を表す左側の表情、対して、涼しげなスパイシーにセンチメンタルな菫やアイリスを合わせたオムは「思考・知性・冷静」を表現した右側の表情。もしも2つの香りがシーツの間で混じったらどんな香りになるだろう?そこには男と女の建前や本音もないまぜになって、複雑でえも言われぬ香りが醸成されるに違いない。これは2つで1つの顔になる香水だ。

プラダオムの香りを纏ってそんなことを考えた。そして苦笑い。確かにオムの香りをのせているとつい「考えて」しまう。「感じる」のではなく。

「感じるな 考えろ」プラダオムはそんなメッセージを感じるメンズの香りだ。左脳を駆使してこの世界をスマートに駆け抜ける、怜悧な男たちのハーフフェイス。

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ジャン ポール・ゴルチエ / クラシック オードトワレ ETS

ジャン ポール・ゴルチエ

クラシック オードトワレ ETS

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:50ml・9,900円 / 100ml・13,750円発売日:-

4購入品

2020/2/15 12:25:44

世界の名香の中には、エポックメイキングなボトルデザインで爆発的にヒットした作品が少なからずある。80年代、モード界のアンファンテリブルとしてその名を全世界にとどろかせたジャン・ポール・ゴルチェ。彼が1993年に初めてリリースした香水。それは女性のボディをかたどった肉感的なボトルをアルミ缶に収めたスキャンダラスな作品だった。その名はクラシック。

クラシックのボトルは女性のトルソー(胴体部分の人型)をデザインしていて、とても目を引く。このデザインは元をたどれば、スキャパレリ社のショッキング(1940)という香水に行きつくが、ゴルチェはこのショッキングへの敬愛と、自身が服を作るときに使っているストックマン社製のトルソーへの愛情を込めてこのボトル形状にこだわったという。このボトルに関する彼の執着は強かったようで、商標認可のために何度か訴訟も起こしていたようだ。

クラシックのボトルを久々に手にとってみると、流石にちょっと気恥ずかしい感があるものの、手に収まるフィット感がとてもいいことに驚く。このボトルは2つの理由で商業的に大ヒットした。

1つめは、マスマーケティングによる強烈なアピールだ。ゴルチェはこの香水を売り出すために、当時としては珍しく何本ものトレーラーを作り、映像と広告で話題をふりまいた。この反響は大きく、以後、他のブランドも追随し、香水を売るために莫大な広告費をかけるようになった。

2つめは、90年代のセックスシンボルとなったマドンナが、ゴルチェの下着ファッションを好んで取り入れて世界的ブームを巻き起こしていたことだ。このマドンナの影響はすさまじかった。クラシックのボトルじたいが、当時マドンナそのもののように感じた方も多かっただろう。

では、肝心の香りの方はどうなのか?今なおコンスタントに売れ続けているというゴルチェのクラシックとはどんな香りなのか?

トルソーボトルの頭を押してクラシックをスプレーする。はじめに感じられるのは、甘くかぐわしいフルーツの甘さとコクだ。チェリーリキュールのような洋酒の香り。すぐさまパウダリーなアイリスの香りが追いかけてくる。このトップがとても印象的だ。

3分もせずに香りは変化してゆく。さすがに30年ほど前に作られた香りなので、トップからミドルへの変容が大きい。ミドルはわずかにシナモンのスパイスが効いたホワイトフローラルになる。オレンジフラワーの柔らかな香りにローズの青み、そして、チュベローズの妖しい感じも出ている。イランイランも感じるがとても弱めだ。つけて5分が最も濃厚にこれらのフローラルミックスが感じられる。

やがて30分もすると、かなり香りがうすらいでくる。フローラルがスッと抜けて、温かみのある香りと石鹸風のほんのりツンとしたムスクが感じられるようになる。これはジンジャーと昔よく使われていたムスクのコンボだ。濃密なフローラルの時間が30分前後で薄れ、あっという間にわずかにクリーミーな石鹸ムスクに変わる。オードトワレなのでパッと広がってすぐに終焉といったイメージの展開。華やかながら、引き際が早い。つけて2時間もするとうっすらとした石鹸ぽい香りだけが漂う。

全体的に香料濃度が薄めで、香りの変化が早い香水。最初は甘く酔わせるように始まり、すぐに濃厚なホワイトフローラルになる。最後はソーピーなムスクという、今なら多くありそうな香り。調香師は現在ルイ・ヴィトン専属のジャック・キャバリエ。彼がフィルメニッヒ社時代に手がけた作品の中でもかなり初期の物だ。ロードゥ・イッセイでアクア系と呼ばれる分野を開いて注目された彼が、その後、ブルガリプールオムを作るまでの間にこのクラシックを手がけている。世界香水ガイド2では、タニア・サンチェスがこのクラシックを酷評しているけれど、どこかバイアスがかっている感はある。この香水はフロリエンタルという流れを世界に強くアピールする記念碑的作品になった。

2020年、長年モード界を牽引してきたゴルチェの引退が発表された。かつて幾多の大スターの衣装を手がけ、映画の衣装でもその独自のセンスを輝かせた巨匠ゴルチェ。今久々にクラシックの香りを嗅ぐと、彼が前衛的なものばかり求めていたのではないことにはっきりと気付く。

「イメージしていたのは、新しい香りではなくおばあちゃんの白粉を思い出させる香り。存在感があって美しく、未来まで残って『クラシック』と呼ばれる香り」

ゴルチェはクラシカルな物を大切にしつつ、自分らしい斬新さを織り込んでいくデザイナーだった。今日、クラシックの香りにゴルチェが歩んできたであろう軌跡を思った。

石鹸の香りのように慎ましい残り香がしている。美しいボトルが春の日に輝いている。

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ゲラン / アンジェリーク ノアール

ゲランゲランからのお知らせがあります

アンジェリーク ノアール

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:75ml・35,200円 (生産終了)発売日:2006/11/15

6購入品

2019/10/19 18:07:33

この香りを嗅いだ瞬間、墜ちた。撃墜された。心が囚われてしばし真っ白になった。視線が虚空をさまよった。どこかで天使が笑っているような気がした。けれどそれは悪魔の嘲笑だったのかもしれない。

ゲランのアンジェリーク・ノアール(黒のアンジェリク)を初めて嗅いだときのことだ。今もはっきりと覚えている。それは黒の衝撃だった。バランスのいいゲルリナーデベースの上に、甘くてクリーミーで、わずかに苦いグリーンな香りがスッキリと広がっていた。そのバランス、その高貴な香り立ちに深く感じいった。

アンジェリークノアールは、ゲランの最高級ライン、ラール・エ・ラ・マティエールの最初の3本のうちの1本だ。2005年、このシリーズ最初の3本を作るために3人の外部調香師が招かれた。フランシス・クルジャン、オリヴィエ・ポルジュ、そしてプラダのキャンディなどを手がけたダニエラ・アンドリエ。彼女が作った香りがこのアンジェリークノアールだ。

価格は75mlで32000円+税。これまでこの価格がネックでもあったが、今後は20mlドロップが伊勢丹新宿店1F「ゲランパフュマー」でいつでも買えるようになる(10月23日以降)。これは嬉しいニュース。

では肝心の香りはどうかというと。

トップ。新鮮で酸味の豊かなベルガモットがまず感じられる。すぐにその下から出てくるのは透明でスッとするアニスの清涼感とスリリングなグリーン系のノート。さらに低音からはアンジェリクルート(根)のスパイシーな爽やかさが広がってくる。甘くて青くて、わずかに苦味が感じられるグリーンなトップ。ベルガモットとアーシーなアンジェリクルートの競演。拮抗。

ほどなくベルガモットの爽やかさは消失し、トップのフルーティーさを洋ナシ様の甘くコクのある香りが引き継いだなと感じると、香りはミドル。そしてアンジェリカの土っぽいスパイシー&ムスキーな香りと好対照を見せるようになる。さながら白と黒の二重唱。明と暗の妙なるコントラスト。

さらに、この甘くフルーティーな香りとベチバーっぽいベースを包みこむように、フローラルムスキーな香りが全体を包みこんでくる。ジャスミンとアンジェリカシード(種子)のムスク香だ。ややクマリン独特のキュンとくるせつないアーモンドノートも混じったような。ここまでくると、さまざまな香料の波状攻撃にあったような気分になり、何ともいえず穏やかな気持ちに包まれる。整理すると次のような感じ。矢印は変化を表す。

高音部:ベルガモットの酸味→ペアーの甘さ
中音部:清涼感のアニス、青いグリーンノート→花の香りのムスク
低音部:スパイシーな根の香り→コクのある苦いクマリン系ムスク

アンジェリクの名が示すように、アンジェリクルート(根)とアンジェリクシード(種子)が使われており、このアロマティックな香気をもつ香料が過剰投与されている印象が強い。アンジェリクの香気の主な特徴は、強いムスク香とハーバルな甘苦さで、根の方はベチバーにも似た土っぽいスパイシーさが感じられる。同時に、桜餅の香り成分である白いクマリンの香り成分ももっている。白を連想させる甘さ&ふんわりパウダリーな種子のムスク、そして大地の黒を思わせる根のスパイシームスク、この両方を使っているということだろう。

このミドルがしばらく続いた後、クリーミーなヴァニラ&トンカビーンのコクが感じられるようになるとラスト。付けてから5〜7時間で柔らかく消えてゆく。なるほど。ゲランの秘伝ベースであるゲルリナーデの構成素材をきちんとおさえた作り。ベルガモット、ジャスミン、ヴァニラ、トンカビーン。この4つのキー素材に、アンジェリカを据えてバランスをとった香水といった風情だ。

全体的に香り立ちはやや強め。ラールエラマティエールの中でもくっきり個性を主張してくるタイプだ。柔らかい香りではあるものの、思ったより周りに主張しているので、付けるならウェスト以下がおすすめだ。ゲランのヴァニラ系がお好きな方、ランスタン系がお好きな方には特におすすめだ。ランスタン系はソーピーでややツンとしたムスクに傾くのに対し、アンジェリクノワールのムスクは甘くしっとりしたパウダリーに広がる。

アンジェリクは、もともとはラテン語で「天使」を意味する言葉だという。だから、アンジェリクノアールは「黒い天使」という暗喩も効かせていることになる。

黒い天使。それは清らかな姿とは裏腹に黒い羽根をもつ堕天使のよう。その神々しい微笑みの裏に、したたかに折りたたまれた黒い翼をもつ者。その禍々しいまでの美しさ。光と闇を統べる善と悪の双眸。

もしもアンジェリークノアールに出会えたら、貴方は墜ちるだろうか?

堕ちた天使の狂おしい香りに。

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イヴ・サンローラン / オピウム オーデトワレ

イヴ・サンローラン

オピウム オーデトワレ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:50ml・13,750円発売日:- (2010/9/23追加発売)

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7購入品

2019/9/15 00:01:54

香水の歴史上、最も危険な作品といえばイヴサンローランのオピウムがまず挙げられるだろう。「阿片(アヘン)」というネーミングに絶対的にこだわったサンローラン。しかしその名前ゆえに各地でパニックや暴動に近い事件が多発したのも事実。それでも全世界で爆発的ヒットを記録し、1977年の発売以来、50年近くたってもいまだに売れ続けている伝説の名香オピウム。その官能的かつ退廃的なオリエンタルスパイシーな香りの中毒となった人は発売以来数知れない。

オピウムは、印籠型とされる特徴的な丸窓ボトルのパルファムと、縦長のシンプルなボトルのオードトワレが1977年に同時リリースされた。現在パルファムは作られておらず、オードトワレのみとなっている。このレビューもオードトワレの方だ。調香師は、後にディオールのプワゾンなどもブレイクさせた凄腕調香師ジャン・ルイ・シュザック。彼は、サンローランに中国王朝時代のオートクチュールコレクションに見合った皇后の香りの創造を託され、その危険で中毒性を感じさせるネーミングに負けない、強くて蠱惑的なオリエンタル系の香りを創り上げることに心血を注いだという。

では、この香水に一体どんな魔力が秘められているのだろうか?

オピウムを身に纏う。軽くスプレーしたとたん、レモン増し増しのコーラのようなスパイシーでフルーティーな香りがガツンと広がる。オピウムのトップは本当にコーラのようだ。慣れ親しんでいる香りだからだろうか。薬草っぽい樹脂の感じも、ベルガモットやマンダリンのシトラスに包まれて爽やかにはじける炭酸のようでとても心地よい。印象としてはかなりクラシカルで濃厚な部類。ゲランのシャリマーやエスティローダーのユースデューに近い系統。

5分後、さまざまなスパイスとフローラルのミックスが鼻を麻痺させるかのように広がってくる。まず感じられるのはカーネーションの香り、甘辛いクローブの匂いだ。そしてたおやかなローズ、誘うような白いジャスミンのふくよかさ。中でもスパイシーなカーネーションの香りがフローラルの中心となって広がってくる。なんという馥郁たるミドル。カーネーションとローズとジャスミンは、ベースにある樹液のくぐもった香りのようなバルサミックなノートの上に開いている。このバランスがとてもすばらしい。似たタイプで言うと名香シャリマーが挙げられるが、あちらはもっとべルガモットやヴァニラ、アンバーが強く、しっとりとしているけれど、オピウムはギリギリと乾いている。スッキリシャープなキレのあるオリエンタル、そんなイメージだ。

このバランスはすごい。昨今のシングルノートだのシンクロノートだの「あまり変化のない香料少なめ値段高めのニッチ香水」に慣れた方は顔をしかめるほどの出力の強さだが、この作品のミドルだけは何度もつけてじっくりと味わってもらいたい。オピウムの香料バランスは本当にすごい。薬草のようなくぐもった樹脂のノート、コーラのような甘辛い香り、キッチン香辛料のドライなノート、そして美しい花々とのコントラスト。人を酔わせ、快楽に誘い、そして、心地よい眠りへと誘う魔法の香り、そう、これは確かに麻薬の類だ。一度味わったらここから抜け出せないかもしれない。これぞ香水オブ香水。何年もかけて本物の調香師が何度も何度もバランスを調整して仕上げた最高水準の香りの十二単。音楽でいえば何だろう。弾き語り?バンド?いや、オーケストラフルボリュームの香りだ。

持続時間はなんと10時間をゆうにこえる。たったひとしずく、その手首の内側につけるだけでも、スパイシードライなコーラのようなフローラルが思いのほか優しくたゆたい続ける。もちろん香りじたいに好き嫌いはあるだろう。けれど、シャリマーやこの香りを知らずしてオリエンタル系香水は語るべきではない。そう思う。

ラストは美しい煙のような樹液のこんもりした香りとアンバーの甘さの引き波を引いて静かに消えてゆく。衝撃的な名前よりなお、あらがいきれぬ愛の経験のアフタープレイのように、静かに狂おしく心に爪痕を残す香り。

忘れたいことも、悲しすぎる記憶も、ただいっときの夢に身を任せて、波間をただよう一輪の花のように、ゆらゆらと揺れてたゆたう時間があっていい。生きてる時間は何かと辛いことが多いもの。せめて一人、煙のような美しい香りに身をまかせて、泣きたいだけ泣ける夜があっていい。二胡の調べ。胡蝶の舞。

サンローランがその人生を賭してなお「この名前でなければノーネームでいい」とさえ言い切ったほど惚れ込んで、どうしても出したかった香水。知らないなら覚えておいた方がいい。

それはイヴサンローランの魂。オピウム。

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ゆかり.*。゜+:*さん
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プロフィール
  • 年齢・・・36歳
  • 肌質・・・普通肌
  • 髪質・・・柔らかい
  • 髪量・・・普通
  • 星座・・・双子座
  • 血液型・・・O型
趣味
  • お酒
  • ファッション
  • 音楽鑑賞
  • スポーツ観戦
  • エステ・リラクサロン

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自己紹介

*:゜+。*2024/02/14更新*。+゜:* ご無沙汰しております。 丁寧で客観的なクチコミを心がけています。 フォロー・Like・… 続きをみる

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