- doggyhonzawaさん 認証済
-
- 55歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿426件
-
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:30ml・23,100円 / 50ml・37,180円発売日:2012/10/24 (2021/6/9追加発売)
2021/12/31 15:57:45
女がシガー(葉巻)をくわえている。無造作に髪をかきあげ、赤い唇からゆっくりと煙を吐き出す。ロンドンのシガーバー、常連の紳士たちが時折彼女に思わせぶりな視線を送るが、女はただ静かにウィスキーのグラスを傾け、最高の酒とプレミアムシガーの香りに酔いしれている。テーブルランプの灯りに包まれ、紫煙と極上の酒の匂いが立ちこめている。男たちの胸に小さな火が灯りはじめている。
タバコ・ヴァニラの香りも、人の心に火をつけるのだろう。
2007年、トム・フォードがリリースしたプライヴェート・ブレンド・シリーズ初期の名作。50mlボトルで現在31900円。当時は「こんな価格は高すぎる!」と大騒ぎしていたが、いつの間にか持ってしまっている。げにおそろしや香水沼。ただ、今もこのシリーズの価格はおしなべて高いとは思っている。物によっては4万円を越える作品もあるし。
さて、そんなタバコヴァニラ。今年伊勢丹サロンドパルファンで、老舗キャロンが新しくリリースしたタバック・エクスキが異常なほど大人気だったことから、巷にタバコノートの大ブームか?と思い「そういやタバコヴァニラ全然使ってなかったな」と引っ張りだしてきて使ったら、前述の古い映画の1シーンを思い出した。いい女に極上のシガーバーは似合いすぎる。
タバコヴァニラをスプレーする。その瞬間、芳醇な洋酒を一口すすったような、強烈で複雑な香りに包まれる。のっけからKOパンチ並の出力、改めて恐れ入る。
鼻の奥に突き刺さる甘く辛い香り。まず感じられるのはシナモンだ。すぐさま下の方から、じんわり湿った苦味の強い香りが一気に広がる。あー、これタバコの箱を開けたときのくぐもった匂いだ。続けて、スパイスがこれでもかと次々にやってくる。スッと冷たいカルダモン、甘く痺れる苦味のクローブ、ナツメグのホットなドライスパイシー感も出てくる。もうトップからエンジン全開な感じ。強烈スパイシームーブなトップ。そしてこの香りが8〜10時間ほど続く。超ロングラスティング。ヴァニラ?そんなものは見あたらない。騙されてはいけない。これはタバコヴァニラではない。スパイシータバコと名前を変えた方がいい香水。
とはいえ、前述のスパイスと暗いタバコノートだけでこんなに漆黒な香りができるはずはない。何か決定的な香料がこの作品をやたらと真っ黒にしている。もともとこげ茶なタバコノートだけじゃない何か。おそらくそれはビターチョコの風合いをもったカカオ系の香料だろう。
チョコというと甘いイメージがつきまとうが、ここで使われているのは真っ黒なカカオの苦味ばしった香り。ミルキーさはない。ただ若干のクリーミーさはある。それも茶色いこげたクリーミー。これがこの香水のヴァニラの正体だ。タバコヴァニラに使われているヴァニラは、同シリーズのヴァニラファタールにも使われているような、焦げたスモーキーヴァニラのようだ。それがラストあたりでほんのり感じられる。ほんのりだ。
それでも
この超絶ワイルドなスパイス&暗いタバコな香水には、切なくマイルドなハニーの甘さがずっと続いていて、心にやきつく。なぜならその蜜の香りが、クラフトコーラやスパイスチャイを思わせるからだ。そこに秘めやかなシガーの煙が濃厚に漂っている。甘く、辛く、苦く。心をシビれさせていく。
出力が高く、ひときわ強いスパイシーさとタバコノートを持った香水、それがタバコヴァニラだ。ヴァニラを感じることは少ないが、それでも人の心に炎と爪痕を残すには十分な香り。かなり男性向けの黒さ&暗さではあるが、女性でこの香りが好きな方も多いようだ。使いどころとしては寝香水にしているという声をよく聞く。こういう強い香りは、男性ならウェスト、女性なら内腿あたりにつけると、香りが揮発して上るうちにマイルドになっていい。そうすれば茶色いヴァニラが柔らかく効いて、かなり扇情的になるだろう。むろん誰かさんの言った「香水はkissしてほしい場所に付けるのよ」といった意味合いも含めて。
シガーバーの男性客たちが、いよいよ色めきたっている。女が脚を組み変えるたび、紫煙がゆるやかに男たちの元へ流れてゆく。それは甘いハチミツのようで、ダークチョコのようで、男たちの心をときめかせる。けれど誰一人、席を立って彼女を口説きに行くことができない。その隙のない身のこなしと、あまりに男性的でスパイシーな女の香水が男たちを躊躇させている。きっと立派な連れが遅れて来るのだろう。どんな男があんな美女をベッドに連れて行けるのかと、暗い炎に身をこがしながら。
女の唇に微笑が浮かぶ。フロアに女の香りが立ちこめる。
それはタバコヴァニラ。漆黒のワイルド&マイルド。
今宵この黒い煙に 心震わせて眠れ
- 使用した商品
- 現品
- 購入品
- doggyhonzawaさん 認証済
-
- 54歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿426件
-
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:40ml・19,140円 / 125ml・39,600円 / 250ml・55,880円発売日:-
2020/4/25 14:10:12
最初はたくさんいる友達の1人だった。特にめだつ人でもなかった。けれど、気がつくといつもそばにいて笑っていた。そしていつのまにか、かけがえのない人になっていた。
そういう友達や恋人がいる人はとても幸せだ。そして、ディオールのラッキーは、どこかそんな大切な人を思わせる香水だ。
メゾンクリスチャンディオールを訪れると、いつも気分が華やぐ。清潔感あふれる白い店内、そこには色とりどりの香水ジュースで満たされたシリンダーボトルが美しく並んでいる。
たいてい最初に試香するのはサクラだ。そこからローズ系に移行する。ラコルノワール、ローズカブキ、ローズジプシーあたりを嗅ぎ比べする。ピンクジュース系からのグラデ。その頃合いで話しかけてくる店員さんに「全部ローズなのに結構違いますね」なんて話をちょっとする。すると詳しい方ならそこからいろんな事を教えてくれる。その話に耳を傾けながら、次々と他のボトルを試していくのがパターンだ。ただ、いつも通り過ぎてしまう香水があった。
ラッキーだ。
なぜラッキーはいつもスルーしてしまうのか?
1つはその淡いグリーン系カラーのせいかなと思う。色とりどりのジュースの中、なぜか淡い緑のジュース系には手が伸びにくい。不思議だ。それでも、テカシミアはティーのスッキリした香りで鼻をリセットしたくて必ず手に取る。ただラッキーは「うん、ま、今日はいっか」になっていた。なぜか?
それは、初めてラッキーを試したときにあっさり香りを覚えてしまったからだと思う。フルーティーでグリーンでジャスミンが強めのスズラン香。「これは洋ナシスズランだ!」そう鼻と脳にインプットされた。名香ディオリッシモの濃厚なスズランとは桁違いに淡くてスッキリしている。「なぜ今さらこんなに淡いスズランを?」そう思った。それ以来、ボトルを見かけてもすぐに香りが脳内再生され、試さなくてもわかる的なスルーを繰り返すことになった。
ところが。
それ以後、MCDのボトルを何本か所有してみて驚いた。MCD香水の中で、実際最もよく使うのはそのラッキーだ。店頭ではいつもスルーしていた香水。淡くてわかりやすくて、フルーティーなスズラン香水、ラッキー。
ラッキーをつけるときは2〜3プッシュする。MCDの香りの中でも「淡い」スタンスにある香りだからだ。つけた瞬間、まず華やかなホワイトフローラルがふんわりと広がる。ジャスミン、オレンジフラワーをメインに、わずかにチュベローズとイランイランの陰影も。
そしてすぐにフルーティーなファセットがフローラルを包みこんでくる。青リンゴのような洋ナシのような、人によってはメロンのような香りだ。この香りはかなりウォータリーで、花の香にみずみずしさを与えている。濃厚なホワイトフローラルのエッジをスッキリグリーンウォータリーで溶かしているイメージだ。
そしてこれがラッキーの全て。MCDの香りは基本シングルノートなので、このまま減衰する。ときどき、間違ったように苦めのグリーンがメンズっぽく出ることはあるけれど、基本的に「グリーンフルーティー>ホワイトフローラル」というシンプルなアコードのまま続いてドライダウン。時間はやや短めで、3〜4時間程度。もはやスズランのオーデコロンといった印象。なんかずっと昔、北海道で買ったすずらん香水を思い出すまろやかな感じ。
でも
だからよく手が伸びるのかもしれない。そう思う。スズラン香はグリーンでシャープなエッジとふんわりホワイトフローラルという相反する二面性をもつので、スッキリさと柔らかさ、どちらがほしいときにも重宝する香りだ。オンにもオフにも使える。
なんかシャキッとしたいな、そう思ったらラッキー。ちょっと優しい気分になりたい。そう思ったときもラッキー。確かに、気付けばいつもそばにいてくれる友達のようだ。派手ではないけれど、フランクで、優しくて、一緒にいて気持ちが穏やかになる。
例年5月1日は、親しい友人や愛する人に小さなスズランの花束を贈る「スズランの日」として、フランスでは昔から親しまれている。スズランの花言葉は「幸福の訪れ」「純粋」「繊細」だ。スズランをもらった人にはすばらしい幸福が訪れるという。
花はディオール。ディオールの花といえばスズラン。それほどまでにクリスチャン・ディオールに愛された花の香りスズラン。名香ディオリッシモの花束感とは違うけれど、調香師フランソワ・ドゥマシーは、創業者ディオールの心を香りにこめて、この幸運のお守りを世界の人々に届けたかったのだろう。
「いつもありがとう。あなたに幸福が訪れますように。」
スズランの花一輪のラッキーチャーム。ディオール、ラッキー。
- 使用した商品
- 現品
- 購入品
-
カプチュール トータル インテンシブ エッセンス ローション
[化粧水]
容量・税込価格:150ml・9,350円発売日:2022/1/1
2022/1/10 12:24:53
15mlのサンプルを使用、緩いとろみがかった化粧水で甘くないお花の香りがします。香りの強さは3時間くらいはほのかに香りを感じられるくらい、弱くはないです。
いつもダイソーの圧縮マスクに浸して顔につけていますが潤いが逃げにくい化粧水と感じました、この化粧水単体で乳液も兼ねられるくらい潤いました。つけた後は若干ペタペタしますが我慢のできる範囲。
- 使用した商品
- サンプル・テスター
- モニター・プレゼント (提供元:未記入)
- doggyhonzawaさん 認証済
-
- 53歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿426件
2019/9/15 00:01:54
香水の歴史上、最も危険な作品といえばイヴサンローランのオピウムがまず挙げられるだろう。「阿片(アヘン)」というネーミングに絶対的にこだわったサンローラン。しかしその名前ゆえに各地でパニックや暴動に近い事件が多発したのも事実。それでも全世界で爆発的ヒットを記録し、1977年の発売以来、50年近くたってもいまだに売れ続けている伝説の名香オピウム。その官能的かつ退廃的なオリエンタルスパイシーな香りの中毒となった人は発売以来数知れない。
オピウムは、印籠型とされる特徴的な丸窓ボトルのパルファムと、縦長のシンプルなボトルのオードトワレが1977年に同時リリースされた。現在パルファムは作られておらず、オードトワレのみとなっている。このレビューもオードトワレの方だ。調香師は、後にディオールのプワゾンなどもブレイクさせた凄腕調香師ジャン・ルイ・シュザック。彼は、サンローランに中国王朝時代のオートクチュールコレクションに見合った皇后の香りの創造を託され、その危険で中毒性を感じさせるネーミングに負けない、強くて蠱惑的なオリエンタル系の香りを創り上げることに心血を注いだという。
では、この香水に一体どんな魔力が秘められているのだろうか?
オピウムを身に纏う。軽くスプレーしたとたん、レモン増し増しのコーラのようなスパイシーでフルーティーな香りがガツンと広がる。オピウムのトップは本当にコーラのようだ。慣れ親しんでいる香りだからだろうか。薬草っぽい樹脂の感じも、ベルガモットやマンダリンのシトラスに包まれて爽やかにはじける炭酸のようでとても心地よい。印象としてはかなりクラシカルで濃厚な部類。ゲランのシャリマーやエスティローダーのユースデューに近い系統。
5分後、さまざまなスパイスとフローラルのミックスが鼻を麻痺させるかのように広がってくる。まず感じられるのはカーネーションの香り、甘辛いクローブの匂いだ。そしてたおやかなローズ、誘うような白いジャスミンのふくよかさ。中でもスパイシーなカーネーションの香りがフローラルの中心となって広がってくる。なんという馥郁たるミドル。カーネーションとローズとジャスミンは、ベースにある樹液のくぐもった香りのようなバルサミックなノートの上に開いている。このバランスがとてもすばらしい。似たタイプで言うと名香シャリマーが挙げられるが、あちらはもっとべルガモットやヴァニラ、アンバーが強く、しっとりとしているけれど、オピウムはギリギリと乾いている。スッキリシャープなキレのあるオリエンタル、そんなイメージだ。
このバランスはすごい。昨今のシングルノートだのシンクロノートだの「あまり変化のない香料少なめ値段高めのニッチ香水」に慣れた方は顔をしかめるほどの出力の強さだが、この作品のミドルだけは何度もつけてじっくりと味わってもらいたい。オピウムの香料バランスは本当にすごい。薬草のようなくぐもった樹脂のノート、コーラのような甘辛い香り、キッチン香辛料のドライなノート、そして美しい花々とのコントラスト。人を酔わせ、快楽に誘い、そして、心地よい眠りへと誘う魔法の香り、そう、これは確かに麻薬の類だ。一度味わったらここから抜け出せないかもしれない。これぞ香水オブ香水。何年もかけて本物の調香師が何度も何度もバランスを調整して仕上げた最高水準の香りの十二単。音楽でいえば何だろう。弾き語り?バンド?いや、オーケストラフルボリュームの香りだ。
持続時間はなんと10時間をゆうにこえる。たったひとしずく、その手首の内側につけるだけでも、スパイシードライなコーラのようなフローラルが思いのほか優しくたゆたい続ける。もちろん香りじたいに好き嫌いはあるだろう。けれど、シャリマーやこの香りを知らずしてオリエンタル系香水は語るべきではない。そう思う。
ラストは美しい煙のような樹液のこんもりした香りとアンバーの甘さの引き波を引いて静かに消えてゆく。衝撃的な名前よりなお、あらがいきれぬ愛の経験のアフタープレイのように、静かに狂おしく心に爪痕を残す香り。
忘れたいことも、悲しすぎる記憶も、ただいっときの夢に身を任せて、波間をただよう一輪の花のように、ゆらゆらと揺れてたゆたう時間があっていい。生きてる時間は何かと辛いことが多いもの。せめて一人、煙のような美しい香りに身をまかせて、泣きたいだけ泣ける夜があっていい。二胡の調べ。胡蝶の舞。
サンローランがその人生を賭してなお「この名前でなければノーネームでいい」とさえ言い切ったほど惚れ込んで、どうしても出したかった香水。知らないなら覚えておいた方がいい。
それはイヴサンローランの魂。オピウム。
- 使用した商品
- 現品
- 購入品