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2017/12/9 02:15:05
夜間飛行。それは厳格で苦みばしった冷たい香り。その一見ロマンティックに思える美しいネーミングとは裏腹に、危険で、ギリギリと奥歯をかむような緊張感を纏う者に強いる香り。ゲランの名香の中でも特に複雑でとらえにくく、混沌としてつかみどころのないフレグランス。それゆえ、1933年の発売以来、その秘密を完全に解き明かされることなく、今なおミステリアスに語り継がれる伝説の迷香。
仏名ヴォル・デ・ニュイ。サン=テグジュペリが発表した同名小説にインスパイアされ、彼の親友であったジャック・ゲランが創ったとされる。香りの特徴は、オリエンタルアコードとシプレアコードを拮抗させるという試みと、ガルバナムの過剰投与というアプローチが見られる点。正直言って、女性がうっとりするような要素はあまり見当たらない。自他に厳しい人や、孤独な魂の彷徨を感じさせるような気難しい香りだ。ここでのレビューは、ビーボトルに変わったオードトワレ(EDT)のもの。
夜間飛行を1プッシュする。すぐに広がってくるのはちょっとアルコールっぽさが強いアルデヒドの匂い。ツヤというかテリのような物が湿った土っぽいウッディにかぶさり、それを強く拡散させてくる。ギターのエフェクターで言えば、音色を響かせるコーラスといったところ。かなりクラシカルな印象のオープニング。
さらに下から、とれたてのインゲンマメのような青臭いガルバナムの匂いと、苦みばしったオークモス系の香りのミックスが立ちのぼってくる。パチュリの湿った土っぽさも絡んで、のっけからシプレのビターな香りがガンガン攻めてくる。やや金属的な清涼感も感じられ、夜間飛行の小説に登場するプロペラ機の冷たい鋼鉄の機体をも思わせる。
やがて5分ほどするとミドル。甘くかぐわしいウッディアンバーと、ややイランイランに似た低音のフローラルが攻めてくる。イランイランよりツンとしているこのフローラルはナルシス(黄水仙)のようだ。そこにオークモス系の苦み、さらにアニマリックなカストリウムのレザーっぽい匂いが混じりあって、かなりカオスなミドル。スッとすばやくかぐと、グリーン&アーシーな苦み、ゆっくりかぐと黄色いツンとした花粉の香り&動物的な匂いがよく感じられる複雑さだ。さながら郵便配達のパタゴニア機が突入していった黒雲の中。暴風雨を思わせる香料の嵐が吹きすさぶイメージ。
そんなミドルが1時間ほどすると、EDTは不意に美しく穏やかな白い世界に変わる。この劇的な変化がとてもきれいだ。わずかなヴァニラを伴ったアイリスルートのパウダリーな香りが静かに広がってくる。ほんのりサンダルウッドも混じって。ラストがオリエンタル系の余韻を残して終わり、色で例えるなら白の世界。残りわずかな燃料で、漆黒の暴風域から雲の上へ突き抜けたファビアンの飛行機が見た天上の世界を表現したかのよう。
このラストを味わう時、銀河の星々のまたたき、月明かりに照らされ、静寂の白い雲海をすべるように進む機体が思い浮かぶ。時折眼下の雲間に光る銀色の稲光。彼が乗った機体は、上司が待つブエノスアイレスの空港に着くことも、暁の金の光を見ることも叶わず、やがて夜の闇の底へと消えた。それはそれは美しくはかないラスト。
けれど、小説「夜間飛行」は、夜間の過酷な飛行に挑んだ操縦士のセンチメンタルな物語ではない。真の主人公は、彼らやスタッフを雇い、前人未到の夜間の飛行機運輸に確かな道をつけようとした支配人リヴィエールだ。一つのミスでも部下を解雇することを厭わない冷徹なまでの彼の姿勢。彼は、暴風帯に突入して連絡がとれなくなった操縦士ファビアンの帰還の可能性を最後の最後まで探る。が、それが叶わないことを知るや、「この失敗によって次の失敗はなくなる」と顔を上げ、次の便を出発させる指示を出す。哀しみを密かに夜の底に捨てて、ゆるぎない前進のための手を止めず。
ジャック・ゲランは、そんなリヴィエールの孤独な魂を思ってこの香りを創ったのではないかと自分は思う。パイロットとして何度も命懸けの任務についた親友サン=テグジュペリ。彼はまた、そんな任務を遂行させる立場の人間の、強く過酷な態度をも慮っていた。暗い地下室で常に孤独と向き合い、ただひたすらに己の理想とする香りを創造すべく孤軍奮闘していた調香師だったからこそ、ジャックは心が震えるほど彼に共感したのではないだろうか。
夜間飛行は特別な香りだ。年齢も性別も超えて、どこまでも自分の弱さと向き合い、己の心臓に常に刃を向け続ける者のために創られた孤高の香水。暗闇を切り裂く命のプロペラのごとく、常に前進し続けようと自らを鼓舞するフレグランス。太陽のごとき理想に向かい、夜明け前の漆黒の暗夜行路を、ひとり往く者のための香り。
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2016/3/13 18:08:24
素晴らしいですね、スフィンクス。
知らない人からすれば、まるで吉村作治よろしくエジプト文明にハマったような言い方ですが、もちろん色の話です。
発売日前にネットで画像を見て、私、大興奮。
実物も本当にこんな素敵な色をしているのか?
お店で現物を確かめたい!
が、行ってる暇がない!
てか、トムフォードのカウンター少なすぎだろ!
限定品を買い逃すいっぽうなんじゃ!
この際、万屋銀さんにでも頼んで、見てきてほしい、などと悶々としつつ、色の詳細を、お店に電話で問合せ。
あるBAさんは
「ゴールドベースに、ピンクパール」
とおっしゃり、あるBAさんは、
「オレンジと、黄色の中間色。ピンクのパールも入ってはいるが、ピンクには発色しない。」
とおっしゃり、こちらから
「キラキラしてますか?」と尋ねれば、口を揃えてイエスとBAさんたち。
とりあえず、暖色系なのね。
キラキラなのね。
それなら、期待できそうだ(←キラキラ・ラメ好き)!
よし、ユー買っちゃいなよ!
私の中のジャニーさんに心押されて、期待しながら、某百貨店のオンラインショップで購入。
届いてみると、写真と同じくマブい偏光カラーのクリームアイシャドーがそこにはありました。
同じ外資系のクリームアイシャドーでも、ディオールやシャネルのそれなんかよりも、サイズはかなり小さいんですね。
それに、あれらほどズッシリ重くない。
場所を取らないし、いいですね。
瞼にのせると、本当に、オレンジに見えたり、ゴールドに見えたり、コーラルだったり、サーモンピンクだったり。
ピンクじゃないと言うBAさんもいましたが、私にはピンクにも見えます。
といって、腫れぼったくはなりません。
うーん、おもしろい。
いろんな色に見える。
最近、こういった「玉虫色」などと称される偏光系アイシャドーの美しさに、どハマりしています。
玉虫といえば、私の住む地域は、イイ年したオッサンでさえ見たら声をあげる、巨大な蜘蛛なんかがしょっちゅう出没する昆虫テリトリーでして(実際に建設業者のおじさんが我が家で蜘蛛に遭遇した際、暗がりでバルタン星人に遭遇したパバロッティみたいに驚きおののいてた)、玉虫なんかもまたラージサイズで、ターコイズだのピンクだのとやたらと多色にギラついてて、まるで地球外生命体のようで、キレイなんだか、気持ち悪いんだかって、本題に戻りますね。
そんな玉虫アイシャドーを過去にも色々見てきましたが、いざ塗ると、手に試したときより地味だったり、たいしてイリディセントじゃなかったり・・・、といった期待はずれも、けっこうありました。
けど、スフィンクスは違う!
本当に、見たままの発色と、輝かしさ!
期待を一切裏切りません。
少量でもまばゆくキラキラに可愛いく仕上がるし、たっぷりのせれば、それはもうエンドレスに華やかでゴージャス。
本物の玉虫より、品よく煌めきます(笑)。
指で少量取って、のばすだけで、目元が簡単に魅惑の偏光キラキラになれますよ。
他の方のクチコミや、他のサイトでのブロガーさんなんかによると、NARSのシングルアイシャドー2095に酷似してるようで。
昨年ソッコー完売した、夏の限定品カラーですね。
私、あの2095、オンラインで買おうとサイト見ていたそばから完売されちゃって、小梅太夫の50倍くらい悔しい思いをした記憶があるので、それに似ているとは嬉しいかぎりです。
けど、逆に2095を持ってたら、スフィンクスは不要なのかしら?
そして色落ち、ラメ落ち皆無!
よれないし、くずれないし、パサつかない。
つけたての色とキラメキが、クレンジングするまで持続します。
値段はお安くありませんが、金銭のことが脳内から吹っ飛ぶくらい、買ってよかった!と感動するクオリティ。
限定品じゃないのも、いいですよね。
というわけで、スフィンクスは玉虫で美しい!って、これまた知らない人が聞いたら、ワケ鼻毛な言い方ですね。
いやー、他の色もほしいなぁ!
ほんと、やるわね、トム!!
今回は★7つで!!
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2015/12/17 00:06:20
秋冬になると、なぜかしらウッディとヴァニラの香りが恋しくなる。もしその2つが、これ以上ないバランスで調合されていたら、それは自分にとってたまらない快感を呼び起こすはずだ。ただ、これまでの香りの旅では、まだ「そこまでの物」には出会っていなかった。そんなとき、ジプシー・ウォーターに出会った。
バレードのジプシー・ウォーターは、自分がこれまで出会った中で、最も柔らかく穏やかなウッディ&ヴァニラの香りだ。何よりも、ウッディ系の香りを苦手とする香水嫌いの方にも、「この香り、一度つけてみて」と勧められる点で、他のウッディの名香より1つ抜きんでる。それだけシンプルで、より多くの人に好まれやすい要素を持っていると思える香りだ。
ジプシー・ウォーターのトップは、一瞬のレモンが駆け抜けたかと思うと、アール・グレイそのものの香りと言った風情の、爽やかなベルガモットがパーンと鼻腔をくすぐる。同時に、サンダルウッドの香ばしい木の香りが、背後から乾いた風を運んでくる。そして、その瞬間、まるでガムシロップを1滴こぼしたような甘さが広がる。それはまるで、芳醇な紅茶の雰囲気。そして、このトップが意外なくらい長続きする。
自分は体温が高めなので、どんな香水でもあっという間にトップ系の香料は揮発していくが、この香りに限っては、5分ほどベルガモットの酸味が持続する。これはすごいなと思ってよくよく見ると、スプレーした手首のところがテカっているのだ。おそらく、粘度の高い甘い香料が、ほんのりベタついて肌にヴェールをかけることで、ベルガモットの揮発を遅らせているのだろう。
最初はそれを見て、「こんなにテカって跡が残るんじゃ、香水としてまずいだろう」と思ったが、5分もするとテカりや粘りはかなり薄くなることが分かった。気にならない程度になる。試しになめてみたが、甘くはない。一体どんな工夫で、揮発しやすいベルガモットを保留しているのか興味深い。
やがてシトラスが静かに消え、同時に、奥からとても落ち着いたお香の香りがしてくる。それは日本のお寺の香りではなく、どこか中東の寺院を思わせるインセンス。とても静かでくせがなく、ほんのり甘い上品なお香。有名なチャンダン(白檀のお香)の香りをかなり淡くして、ちょっと暗めにしたような芳香だ。
通常、ハーブやフローラルをもってくるミドルに、いきなりのインセンス。まるで、ど真ん中を省略して、トップからいきなりラストに飛んだように感じられる大胆な構成だ。
そして、奥からクリーミーでふくよかなヴァニラの香りが浸出してくる頃、インセンスの香りは、ベースのサンダルウッドと相まって、より温かく、マイルドになってくる。そして。
驚くべきことに、自分の肌の香りと混じり合って、何ともいえない甘くせつないウッディ&ヴァニラの香りに高まってくる。これには本当に感じ入った。
試しに、ファブリックと試香紙にも香りをのせ、手首との揮発の違いを確かめたところ、布地や紙では、いつまでもトップのベルガモットの香りがしていて、なかなかインセンス&サンダルウッドが出てこなかった。さらに、ヴァニラが出ても、とてもはかなく、手首に付けた時のような心地よい香り立ちにはならない。この結果から推測できることは何かと言うと。
1つには、体温高めの人に、このウッディ&ヴァニラは、よい香り立ちが出やすいのではないかということ。そして、もう1つは、人がもともと持っている匂い、それは動物っぽいアンバーのような香りと言っていいと思うが、それを合わせたときに、この香りが完成するのではないか、ということ。言い換えれば、これは、その人の肌の匂いをひきたてるスキン・セントの部類だ。
通常、ウッディは重ための香料が強く主張するので、あまり肌の露出しているところには付けないことが多いように思う。けれど、ジプシー・ウォーターなら、例えば、うなじや首筋、手首の内側などに付けても、香り立ちがシンプルかつフェミニンなので大丈夫だと思う。体温が低めの人であれば、紅茶の香りを思わせるベルガモットの爽やかさが続くだろうし、体温高めの人なら、サンダルウッド&ヴァニラのラストを長く楽しめるだろう。このオー・デ・パルファンは、香り立ちこそ淡いけれど、ミドル〜ラストが、かなり長い時間、ゆったりと香り続ける。ほんのりと、じんわりと。日によっては、5時間以上も。
ジプシー・ウォーター。それは、理想郷を求めて旅を続ける、流浪の民の象徴。かつてインドから欧州へと移り住んだロマたちの、荒ぶる魂と自然に寄り添う静謐さを思い描いた香り。その歴史の裏に見え隠れする、不当な差別や偏見、貧困や悲しみを超えてなお、自然や世界に対峙し続けるさすらい人たちに捧げる香りだ。
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[口紅]
容量・税込価格:3.5g・5,500円 / 3.5g・5,940円 / -・4,620円 / -・5,280円 / -・5,940円発売日:- (2022/8/5追加発売)
2015/2/7 21:51:55
イエベ色白、唇の色がけっこうしっかりあるほうです。
自分では色はそんなにないと思ってたのですが、シャネルのBAさんに
色はかなりあるほうだと言われました。イエベの方の参考になると幸いです。
(しかし、唇が濡れているときは赤みが強いのですが、乾くとごく薄いピンクから肌色寄りになります。なので、案外唇の色は薄めなのかもしれません。)
マットめだけどうるおいもあるタイプです。
#88 (画像1)
白めピンクですがこれは顔色が悪くなりませんでした。
私の場合、白みピンク(ベビーピンク)で大敗を期す事が多いのですがこれはまったく違います。
この色は白み寄りの薄めのベージュピンク(スモーキーピンクが一番近いと思います)なのですが、これだけだと顔色が若干冴えないので、
チークとアイメイクしっかり目で使うとかなりいいです。引き算メイク的にかなり使えます。
(写真では白みピンクですが実際の色はもう少しスモーキーな感じです。かと言って80年代のスケバン笑みたいなスモーキーピンクではなく、さすがシャネルのスモーキーピンクです。
とてもオシャレな色。)
#85 (画像2、3)
美人にみえるんです。
・・・・この色、“こじはる色”なんです。
これ何かに似てるなぁ…と思っててハッ!!!!と気づきました。
小嶋陽菜さんがよく塗ってるような“あのピンク”。まさにあのピンクでした。
すごく色っぽい色。色っぽいというか、なんか「美人」なんですこの色。
大胆な色ですが「よくぞ世に送り出してくれました!」といった感じ。
血色のいい、花びらのような赤みピンク色です。
口紅自体の色が濃い部類になると思うのでどんな方が塗ってもスティックの見たままの色が出ると思います。
でも、色彩的に区別するならピンクというよりピンクレッドに近いのかもしれません(レッドと書くと赤!という印象が強いですが赤味がしっかり入っているピンクと書くのが一番近い表現になるかもしれません。)
花びらのようにくちびるが染まるって言うのかな?
うまく言えませんが、画像2が肉眼で見たときの色に一番近い気がします。
口紅の色を一見しただけではげげげと思うすごく濃い色。
この口紅を塗らずにぱっと見ただけでは絶対買おうとは思わない色でしたので思わぬダークホース。
でも、塗ってるだけで美人に見えてしまう色ってこういう色を言うのかな?と。
そしてこれを塗っているとなぜだか男性にやたら見られる気がします。
理由はこの口紅以外思い当たる節がないしさすがシャネルといったところ。
(あまりに素敵とは言いがたい写真を三枚も載せてしまい。。すみません。。。特に画像1などはちょっと斜めになっていてフフン♪と気取っているようでございましょう。。とんでもありません泣!!!!!真っすぐに直そうと思っても
直りませんでした!!!!!!!!!!(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)
ほんとにすみません...)
クオリティの高さに脱帽、
自分の顔にビタッ!とくる色を見つけたときのポテンシャルは他の追随を許しません。
色が絶妙で秀逸。
で、塗ったら塗ったで見た目が淑女のような口元になるのでやめられません。。。
さすがシャネル高いだけではない。他のブランドを寄せ付けない小技と技術が光ります。
(ちなみにルージュアリュールはマットな質感なので、秋冬などの皮むけで綺麗に塗れないよー!という方とか、乾燥が気になる方などは口紅のあとか前にリップクリームとか保湿を挟んであげるといいかもしれません。私はこの半マット的なぴたっ!となる感じが好きなので、リップを塗ってからティッシュオフして滑る感を取って、ほんのり保湿を残して塗るとスルスルスルーときれいに塗れるのでそのようにしてます。)
私は、皆さんの口コミを読んでイエベの方の口コミなどで口紅を探す事が多いです。
この二本も店頭で見るだけ/BAさんに薦められるだけでは絶対に買わなかった
(自分だけの判断では買えなかった)色でした。
いつも皆さんの口コミで本当に本当に助かっています。
どうもありがとうございます。
これからも自分に合った色を吟味して、
これだ!と思える色を揃えていきたいです。
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2016/2/13 16:13:47
バイオレットシロップを使ったそのドリンクを初めて飲んだのは、14歳のときだ。フランスから帰国していた叔父が、ごく親しい者だけで開いたホームパーティーでのこと。そのとき、叔母がふるまったうす紫色のドリンク。思わず、目が釘付けになった。な、なにこれ?
「パルフェ・タムールが来た。さあ、飲もう。」病気を患って以来、アルコールをやめていた叔父が、紫色のドリンクに鼻を近づけ、うまそうに一口すすった姿を今も覚えている。パルフェ・タムールと呼ばれたそのドリンクを口元に運ぶと、それは甘いような苦いような、暗くて湿った花の香りがした。一口飲むと、かつて経験したことのないかぐわしい花の味に、「フランスの人っていつもこんな飲物を飲んでいるのか」と感慨深く感じた。
それがバイオレット・フィズのノンアルコール版だったことを知ったのは、もう少し後のことだ。ソルティ・ドッグやスクリュー・ドライバー、マイタイやチチなどのライトなカクテルが人気の「カフェ・バー」ブームがあった頃。街にはブランド服をまとったソバージュやロングカーリーの女の子たちがあふれていた。
トム・フォードのノワール・オードトワレは、そんな頃をふと思わせるバイオレット・フィズの香りがする。オープニングに使われているほんのりとしたレモンの香りも、このカクテルのレシピになくてはならない物だ。ウッディ&ムスクのベースは柔らかく平凡だけれど、ニオイスミレの暗くひっそりした香りが効果的に使われたフレグランスだと思う。
ノワール・オードトワレ(透明ボトル)は、トム・フォードが2012年に発表したノワール・オーデパルファン(黒ボトル)のコンポジションを受け継ぎながら、2013年に発売された。オーデパルファンよりも軽く、スッキリした雰囲気に仕上がっているのは、スペアミントの清涼感やシトラスとハーブオイルのアクセントを用いているからだろう。そのおかげで、パウダリーなアイリスが感じられるオーデパルファンよりも、ライトで使いやすい雰囲気になっているように思う。
とは言え、あのブラックオーキッドやグレイベチバーなどの初期の作品に比べれば、トム・フォードの作品は、おしなべて軽く、シンプルな構成に変わってきているように思う。それはプライヴェート・コレクション発表の頃から彼が言っている「香りが薄くなったらどんどんレイヤーしていき、1日の終わりには何種類かのブレンドが自身の体から立ち上っているのが好きだ」という言葉からも伺える。つまり、最近の立ち位置は、ジョー・マローンのフレグランス・コンバイニングに近いと言えるだろう。
この作品においてもそれは感じられ、トップに淡いレモンやシトラス&ハーブの雰囲気を感じたかと思うと、3分もしないうちからバイオレットの密やかな香りが主体となる。ニオイスミレをフィーチャーしたものと言えば、ペンハリガンのヴィオレッタがまず思い浮かぶが、あれほどスミレスミレしているわけではない。ほのかに暗く、ややアイリスの白粉っぽさに支えられて上品なイメージだ。とても穏やかで、スッキリしていて心地よいスミレの香り。注意深く背後の香りを感じようとすれば、バラの清涼感も感じられるけれど、全体にうっすらと香る印象。持続時間もオーデコロン並に短く、1〜2時間という感じ。最初から淡く、あっという間に消えていくフィーリング。ラストにはややヴァニラの雰囲気も。
中世フランスにおいて、ニオイスミレはバラとともに高貴な女性から漂う香りの象徴であったという。対して高級娼婦は、ジャスミンやチュベローズなど、蠱惑的でセンシュアルな香りを身に付けることが多く、香りだけでその女性の出自がある程度判断できたそうだ。
ノワール・オードトワレは、淡くて持続時間も短いが、その分、手首やうなじ、デコルテなど、肌が露出している部分に直接スプレーしても周りに大きな影響を与えないほど穏やかだ。
スミレやアイリスの香りは、とがった心を鎮静させ、落ち着かせてくれる意味で、アロマ的な効果も高いと思う。このトワレは、憂鬱とは言わないまでも、何か心に心配事や憂いを抱えているとき、一人になりたいけれど何だかそれも淋しいようなとき、そっと心に寄り添ってくれるような香りだ。特に、男性用にプレゼントを考えている人には、抜群のセンスを感じさせる逸品になるだろう。
パルフェ・タムール。バイオレット・リキュールの仏名の意味は「完璧な愛」。ニオイスミレの香りがするノワール・オードトワレは、静かに、けれど一途に人を愛し続ける人に似つかわしいフレグランスだ。
今はもう、天国の住人となってしまった叔父。彼の豪放な笑い声が好きだった。ノワール・オードトワレの香りに、彼が教えてくれたパルフェ・タムールの味が、今も重なる。
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