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2022/6/25 03:51:36
英国の香水ブランド、ミラーハリスのティートニックは、同ブランド内でもトップセールスを上げているお茶系香水だ。50mlボトルで17050円(税込)。
◎どんな人、どんなときにおすすめ?
・慌ただしい日常に、さりげない優しさや癒しを求めている人
・人や自然との付き合い方に、穏やかさを大事にしている方。
・季節を問わず、ふっと力を抜いてリラックスして過ごしたいときに。
◎この香水のよさを3つあげると?
・天然香料をふんだんに使った、透明感ある優しい香り立ちであること
・複数のティーノートの組み合わせでトニックを作っているので、常に異なるお茶の香りが楽しめること。
・大女優ジェーン・バーキンから実力を見こまれ、シグネイチャー香水を依頼されたイギリス人女性調香師リン・ハリスの作品であること。
●逆に「ここはどうかな?」と感じる点は?
・しいて言えば持続性。3〜4時間ほどでドライダウンするので短めだ。淡いというほどではないが、天然香料多めの構成なので、それぞれの香料揮発が早く、香りは常に変化し続ける。日によって香り立ちも異なり、あきることがないが、最初から最後まで同じ香りでなければ、という昨今多いワンノート愛好家には不向きかも。
〇香りの展開
天然香料多めなので、つけた瞬間のトップの香りの感じ方はいくつかある。
・レモンの酸味が感じられ、明るいレモンティーの香りがするとき
・ベルガモットの爽やかな苦みが感じられ、ノーブルなアールグレイの香りがするとき
・ネロリのふんわりしたフローラルが感じられ、ハーブティーの香りがするとき。
天気、湿度、肌の乾燥具合、体温等によってもかなり異なるので、毎回香り立ちが異なって面白いトップ。
このトップのシトラスミックスは、かなり控えめなので3分もせずに消失する。その後はミドル。ミドルは自分の場合、意外にも毎回ミルクティーのような風合いになる。これは人によって異なるかもしれない。
フエギアのキロンボなどのような「甘い練乳」ではないが、ミドルでは明らかにミルクノートが感じられる。クリーミーではない。ミルクのヴェ―ル。そこに少しだけくぐもったスッキリしたティーの香りが寄り添っている雰囲気。
これがなんともいえず切なくて優しい。
とはいえ、ときにネロリのファセットかな?と思うようなゴムっぽい香りも感じられるので、まんまミルクティーではない。そこかしこに、スッキリ香ばしいマテ茶の風合いやら、甘い紅茶のコクやら、ほんのりチャイ風のスパイスやらが漂っていて、とらえどころがないイメージ。場合によっては、ジャスミンティーが出ることもある。試しに左右の手首につけてみるといい。おそらく香り立ちが左右で異なるはずだ。それくらい繊細で複雑な香気が幾重にも感じられる調香。この作品は、その時その時でいろいろなティーがふわふわと見え隠れするようになっている。
それでもミドルの香り全体の印象は、まろやかで穏やかなティーノートといった感じで、しっかりまとまっている。クリーミーなヴェールがかかった古今東西の銘茶のミックス。ちなみにちょっと湿度が高いときには、わりとスモーキー&スパイシーなティーが出やすいように思う。
ラストは早い。柔らかなヴァニラリィとスッキリした渋みを感じるティーと甘いムスクで終焉。つけて2〜3時間ほどでドライダウン。
ティートニックは、個人的にちょっと思い出のある香りだ。2019年夏、GINZA SIXの限定ポップアップストアで、店員さんといろんな香水についてお話させてもらった。ミラーハリスは前年のフエギアポップのように大混雑はしていなかったので、1つ1つ試していく自分に丁寧に応対してくださって、ゆっくり気持ちよく過ごすことができた。あのときは蒸し暑い夏だったので冷たいフローラルのカードジャルダンを購入したけれど、なぜかずっと心に残っていたのがこのティートニックだった。はい、ちゃんと買いました。
だから、ティートニックをつけるたび、BAさんのすずしげな笑顔をふと思い出す。柄にもなくブースにあった「サウンドドーム」なる謎の半透明の球体に頭を入れてはしゃいだのも、BAさんのホスピタリティの成せる業だったろう。
トニックという言葉には「明るく」や「元気にする」という意味もある。調香師リン・ハリスが育ったイングランド北部、グラスバレーが続く広大な土地を思う。吹き抜ける涼風。歴史を感じさせる瀟洒な街並。そんな中、仕事の手を休めて、ちょっとひと息入れるくつろぎのティータイム。今日は摘んだばかりのハーブを淹れて。
3時です。お茶にしましょう。
ティートニック。この香りは、またあなたを笑顔にしてくれる。
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2022/6/11 02:03:07
”遥か遠くへ まだ遠くへ 僕らは身体も脱ぎ去って
まだ遠くへ 雲も越えて まだ向こうへ”
ルイ・ヴィトンのイマジナシオンを初めて肌にのせたとき、心に美しいメロディーが流れた。澄んだ声が空や海の無限の広がりを感じさせるヨルシカの「老人と海」。その名のとおり、ヘミングウェイの小説をモチーフに作られた歌。
”靴紐がほどけてる 木漏れ日は足を舐む 息を吸う音だけ聞こえてる”
靴紐がほどけている人は、満足に漁ができなくなってきた老漁師サンチアゴの姿に重なる。あるいは「靴紐」じたい、彼が壮絶な死闘の末に仕留めた巨大なカジキを小舟にくくりつけたロープなのかも知れない。その先にあったはずの希望が、サメの襲撃によってほどけて絶望になった瞬間…。
香水の香りは、こんなふうにさまざまな映像や記憶、風景を心に映し、音楽を喚起し、イマジネーションを広げてくれる力をもっている。イマジナシオンと名付けられたこの香水には、そんな思いがこめられているのだろう。
ルイ・ヴィトン香水のメンズライン、7番目の作品イマジナシオン。イマジナシオンは2021年の発売以来、メンズ香水のシリーズながら、SNSの投稿などを見てもかなり女性ファンも多い香りだと感じている。では一体、どんな香りなのか?
イマジナシオンを肌にのせる。その瞬間、最初に感じられるのは、爽やかなベルガモット、ジューシーなシトロン、ほんのり甘いマンダリンのきれいなシトラスミックスだ。いつもながらヴィトン香水のトップは、高品質でまろやかな天然柑橘スプラッシュで感動すら覚える。
ほどなくシトラスの下から甘くふくよかなネロリの香りが広がってくる。ここまでがとてもシームレスで美しく、ジェンダーレスな展開。ネロリのふんわりフローラルが5分ほどで安定してくると、その下から2つの香りがしっかり主張してくるようになる。
1つは、わずかにスモーキーで渋味のあるスッキリしたティーノート。スモーキーなティーと言えばブルガリブラックなどで使われたラプサンスーチョンティーが有名だが、こちらはいわゆる正露丸っぽさはなく、かなりおさえている印象。そしてもう1つは、海や潮風を思わせるアンブロックスの香り。アンブロックスはアンバーグリス系香料の1つで、同系統のアンブロキサンよりも「海っぽいダシ」がひかえめで、スッキリ上品な潮風系。この2つが二重らせんのようにスパイラルに感じられてくる。
「スモーキーなブラックティー」×「クラウディーなアンブロックス」。この2つの取り合わせは、ジャックが名声を手にした記念碑的作品であるブルガリ・プールオムに対する自身のオマージュになっているかのようだ。ブルガリ〜では、透明感あるダージリンティーの高音の下でソーピーなムスクを取り合わせ、2つをペッパー等のスパイスがつないでいた。イマジナシオンではこの位置関係が逆転している。つまり、本来重たくなりがちなアンブロックスを澄んだ高音で鳴らして、低音部でスモーキーなティーを響かせているイメージ。この2つをつなぐスパイスは、温かみあるジンジャー&シナモンのミックスだ。
そして
イマジナシオンは、パルファン・デ・コローニュ最初の3作品「黄色のサンソング」「緑のカクタスガーデン」「青のアフタヌーンスイム」を合わせたスペシャルコラボな香料構成になっていることにも気付く。この3作品のキー素材は、サンソングがネロリ、カクタス〜はティー(マテ)、アフタヌーン〜はアンブロックス。3作品に割り振られたレモン、ベルガモット、マンダリンの柑橘も全てミックスされている。これは「夢のカリフォルニア全部のせ」香水に他ならない。
さらに
各ノートの心に対する作用を見ても興味深い。一般にシトラスにはRefresh作用、ティーノートにはRelax作用がある。そして母なる海の匂いアンブロックスにReborn作用があると捉えるならば、イマジナシオンは心を回復し、落ち着かせ、そして再生させる香水だと言える。この3つの”Re"が効くから、心は再び大空や大海原へ、無限の想像力の翼を得て飛び立つのだろう。持続時間は6〜7時間。香り立ちは柔らかく主張は弱めだが、穏やかなティー&アンブロックスの香りをかなり長く楽しめる作品になっている。
”風に乗って 僕の想像力という重力の向こうへ まだ遠くへ まだ遠くへ 海の方へ”
ヨルシカの澄んだ声が水色の空と海の間へ吸い込まれていく。
どこまでもいこう。まだ見ぬ世界を求めて。大好きな音楽と古びた文庫本を持って。
7つの海を想像力の翼で越えていけ。ルイ・ヴィトン、イマジナシオン。
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2022/5/28 08:53:57
400本めの香水レビュー。ここまでちょうど9年間、書き続けてきた。週一度1本ペースだから、レビュー数じたいは多くはない。それでもその1本を書くために、香料分析、背景リサーチ、比較検討、推敲編集やらで、1本につき平均6時間はかかってるから、9年で400×6=2400時間は香水の勉強をしてきたことになる。←そのわりにわかってないけどな
珍しい機会なので、その400本の中から心に残っている香水をほんの少しまとめてみる。
◎最もリスペクトしたクラシック香水3本
・シャリマー(ゲラン) ・ルールブルーEDP(ゲラン) ・N°9(シャネル)
◎最も心に突き刺さった香水2本
・ラペルトワ(ラルチザンパフューム) ・フェミニテ・ドゥ・ボワ(セルジュ・ルタンス)
◎最も偏愛して日常使用してきた香水
・エンジェルEDP&EDT(ミュグレー) ・コローニュロワイヤル(ディオール)
◎出す作品どれも恐ろしくできがいいと思う香水ブランド
・ピュアディスタンス ・フラッサイ
◎400書いた中で心に焼きついているレビュー3つ
・ラペルトワ(ラルチザン・パフュ―ム) ・エンジェル(ミュグレー) ・ロストチェリー(トム・フォード)
世界中で年間何万本も新作が生まれる香水業界。その中にあって、これまで出会えた香水はまさに「ご縁」。そんな中、紹介する400番目の香水は、初めからちょっと「ごめんなさい」しておきたい作品。なぜなら日本未発売かつ限定品という超入手難しい系。たぶん自分も、この先もう1本ストックを入手することはできない。そういう意味では本来紹介するつもりはなかった香水。ただあまりにも香水としてできがよく、個人的にもラペルトワに匹敵するほど美しく、自分の性癖にぐっさり刺さった香りなので、このまま誰にも知られず消えていくのは悲しいと思ったから、そっとここに置いていく。
それは、フランシス・クルジャンが2015年にパリの百貨店プランタンの150周年記念のためだけに製作したル・ボー・パルファム。この香水は自分の中で特別すばらしい作品、極上品。星をつけるなら☆7満点のところ、☆70はつけたい香水。ただそれはもちろん自分にとっての超どストライクであって、貴方にとって好きな香り、またはベストマッチとは限らない。香水に「万人に好かれる香り」なんて存在しないからだ。
ルボーの香料イメージはシンプルだ。クレジットによると以下のとおり。
インドのチュベローズ&ジャスミン、チュニジアのオレンジブロッサム、マダガスカルのイランイラン。いわゆる濃厚なホワイトフローラルブーケ系統の香り。
ただ使用している花の香料はどれも高品質ですばらしく、同時にそれらを際立たせるための「つなぎ香料」が超絶いい。しかもナイスバランス。はっきり申し上げる。さすが天下のプランタン。これを作らせるために、クルジャンにどんだけ対価を支払ったのだろうというくらい、スペシャリティ香料をふんだんに使用しているように思う。つまり「売っても赤字」なくらいゴージャス&センシュアルな出来。だから周年記念の限定香水なのだろう。
ルボーを肌にのせる。その瞬間、あまりに甘くかぐわしい花の蜜の香に脳がよろめく。体がふらつく。矢吹ジョー渾身のクロスカウンター一発もらった気分。腰からくだけ落ちる。花園に倒れこむようにマットに沈む。お花畑で好きな女の子を追いかけるスローな白日夢を見る→人間終了。な開幕。それほど左脳崩壊で言葉にならない美しいフローラル爆弾なトップ。
それでも、カウント9でギリギリ立ち上がって香りを分析するなら
ルボーは偏愛するラルチザンのラペルトワにインスパイアされて創ったのでは?と思うくらい雰囲気が酷似している。クリーミーガーデニア&山椒という「花の優しさ&スパイスの棘」の取り合わせで、内面の感情を激しく揺さぶるラペルトワ。その山椒部分をごく微量のキャラメルノート&シナモンが代替するような形で、白い花束に甘いグルマンを補完している。これがたまらない。クルジャン、あなたさてはラペルトワのベースをヒントに、同ラルチザンのアムールノクターンを組み込みましたね?と言いたくなるくらい。わからない方はわからなくていい。これはほぼ自分にあてた周年記念レビューだ。
サイレージは5時間程度。ジャスミンの残香強めでルボーは消えてゆく。ルボーは「プランタンおめでとう!」で作られたけれど、その甘くてノーブルで、どこかノスタルジックなクリーミーな花束は、プランタンとクルジャンがあなたに贈る感謝の花束の香りだ。
いつもありがとう
あなたのおかげで 今があります
あなたの一日が 美しい香りに包まれますように
おめでとう あなたへ
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2022/5/21 18:03:13
ゲランのフレンチーラヴァンドは、クラシカルなラベンダーコロンを上質に仕上げた風合いの香水だ。発売は2021年、価格は100mlニューボトルで46200円。
◎どんな人、どんなときにおすすめ?
・まず何と言っても、この香りのターゲットである男性。自分の身丈に合ったスーツをパリッと着こなした30代〜50代の男性におすすめ。爽やかで知的、同時に周囲へのさりげない気遣いができる男性に。
・メンズ寄りではあるものの、キリッとしたシトラス&ハーブの香りと同時に、優しさと可憐さのあるネロリも感じられる香水なので、シンプルで上質なパンツスーツ、白シャツやタイトスカートをさらりと着こなす女性にもおすすめ。
・オンオフで言えば、オン向きにも使える香り。しっかり背筋を正していたいときに。
・フランス産のラベンダーが一斉に開花する6月〜7月に合わせた旬の香りとして。また、気温が上がる時期にクール&シャープなアイコンを印象付けたいときにも。
◎この香水のよさを具体的に3つあげるとしたら?
・世界最高とされるラベンダー、フランスのプロヴァンス地方の真性ラベンダーを使用していると思われる点。真性ラベンダーは冷涼な高地で咲き、他のラベンダーがもつシャープさや青臭い雑味がなく、フローラル感あるリナノール、フルーティーな酢酸リナリルがしっかり感じられる特徴をもつ。このラベンダー香はいい。
・ジュース色がとても心惹かれるブルー。ラールエラシリーズの中にあっても、この香水の色は特別に目を引く淡いブルーで、新ボトルの洋酒ライクな造型と相まって、涼しげで美しい。
・ゲランのメンズ香では珍しいアロマティック系の香水であること。現在ゲランメンズ香の主流になっているロムイデアルシリーズよりも、ライトで包容力のあるアロマティックフゼア系の香りになっている。これなら人と香りがかぶることもあまりないだろう。
▲逆に「ここはどうかな」と感じる点
・よいラベンダーを使っているが、ミドル以降、香りがメンズ寄りになっていく点。最初はシトラスの力で爽やかに開幕するので女性にもつけられそうな期待感が増すけれど、この香水は次第にメンズ香水独特の重たさ、よく言われる通称「トニックっぽさ」が出てくる。いわゆる「いい男」が付ければかなり惹きつけられるヤバめな香りになるが、つける人によっては、男女問わず「おっさんキター」のパラメータを上げてしまう可能性も。そういう意味で、香りが付ける人を選ぶようなタイプではあると思う。
○香りの展開
フレンチーラヴァンドをつけると、まず感じられるのは、「あぁ」と声が漏れるほど美しいレモンとバーベナのシトラスミックスだ。クリーミーで明るいバーベナがかぐわしく、レモンの酸味と相まってとても心地よく感じられる黄色いトップ。このトップはとてもフレッシュで、風と太陽の光を感じるようなナチュラルな香り。
ほどなく、シャープな葉の香りをもつプチグレンと、セージの涼しげなハーブ香が顔をのぞかせてくるとミドル。同時にほんのり甘さのあるフローラルなハーブも出てくる、これがキー素材のラベンダー香だ。このラベンダーの何とまろやかなこと。天然香料をふんだんに使っており、シトラスもハーブもラベンダーも、柔らかいのに奥深い香りがする。
ただ、このミドルは徐々に重さを増していく。クリーミーなシトラスが消失すると、代わりにネロリの甘くふんわりした香りが感じられるようになる。このネロリはわりにゴムっぽいファセットが強い。もしかしたらジャスミンのインドールかもしれない。そこにベチバーの土感、草感も出てきて、後半はメンズ寄りウッディになってくる。
ラストは青空や海の青を感じさせるわずかなアンブロクスとベチバーのミックスでドライダウン。つけてから4〜5時間。シトラス以降の香り立ちは比較的穏やか、ラベンダーも樟脳っぽさが少ないフローラル系統で、紫と言うよりも淡いブルーな香りに仕上がっている。
フレンチーラヴァンドの香りに、遠いプロヴァンスのラベンダー畑を思う。
フランス、プロヴァンス地方は、世界最高のラベンダー畑があることで有名だ。どこまでも続く紫色の絨毯は、冷涼な気候と乾いた土壌がもたらす極上のヒーリングゾーン。人は昔から、心が疲れると身の回りに青や紫色を置きたくなるという。ラベンダーは、その癒し効果抜群の香りだけでなく、色によっても心に寄り添っているのだろう。
すずやかな風が吹いている。見渡す限りの紫の畑、1本1本のラベンダーが空に伸びている。それはまるで、紫の小さなエッフェル塔の群れだ。
プロヴァンスの広大な大地、何千億もの小さなエッフェル塔が、青空に向かってまっすぐ立っている。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2022/5/7 14:25:22
「自然はさながら一個の巨大な生き物だ。そこにある命は全てつながっている。」世界が生物を細かく分類することに力を入れていた頃、全く真逆の思考を唱えた偉大な探検家アレクサンダー・フォン・フンボルト。彼は全ての生物が「生命の網(ウェブ・オブ・ライフ)」としてつながり、互いに影響し合っていると説いた。ときに今から200年以上前。
「世界の成り立ちを知りたい!」とプロイセン(旧ドイツ)を飛び出し、南米やアジアを旅し続けたフンボルト。アンデス山脈を越え、オリノコ川とアマゾン川の源流がつながっていることを発見し、チンボラソ火山に登ったかと思うと、アマゾン川でデンキウナギの力を試すために馬を感電させてみたり。フンボルトはまさに好奇心の塊だった。ダーウィンの「進化論」の礎を作り、詩人ゲーテに慕われた、近代地理学の祖にして「知の巨人」。
フエギア1833のフンボルトは、その偉大な冒険家の名を冠した香水だ。
フンボルトには、彼が南米のジャングルを訪れた際、地元のインディオたちがパッションフルーツの実を割って食べたときに香ったであろう、爽やかでフルーティーな香りが真空パックされている。
ブランドによると、フンボルトのキー香料には、ベルガモット、パッションフルーツ、タンジェリンの3つが紹介されている。作品系統ではフルーティーに位置する作品。ここから、かなりシトラス系の香水かなと想像しつつフンボルトをスプレーすると、見事に肩すかしをくう。
フンボルトをつけて最初に感じられるのは、かなりスパイシーでグリーンな苦味だ。そして自分の肌では明らかにスパイシーセロリな風合いに出る。
まず何がしかの鼻をくすぐるスパイスがある。ペッパー風のキリッとした香料だ。その背後で塩みの効いたセロリライクな苦味が強く出てくる。総体として自分には「セロリっぽ!」と感じるが、よく嗅ぐと分厚いセドラやオレンジの内側の白い綿の部分、あのアルベドっぽい感じの酸味に、何か別の植物系グリーンな苦味が効いて、それにペッパー風味がのっている印象だ。正直、自分にはシトラス寄りではない。ジャングルの入口。さまざまな亜熱帯植物が太陽に温められた生っぽい匂い、土の匂いがする広大な川、それらを思わせる複雑で不思議なトップ。
5分ほどすると、ギリギリとしたグリーンな苦味の下からふんわりフルーティーな果実の香りがしてくる。酸味とふくよかなジューシー、これはパッションフルーツの果実香だ。ただ、かなりスパイシーグリーンな影をもったフルーツ香。そしてこのかぐわしい香りがどんどん強くなってくる。
船が静かにアマゾンの水面を滑っていく。インディオがジャングルのあちらこちらから船の様子をうかがっている緊張感が漂ってくる。そのスパイシーな気分とは裏腹に、酸味のある熟した果実香もまたどんどん強くなってくるイメージ。
このパッションフルーツの香りがしてくると展開はミドル。そしてフンボルトは、このミドルからがとても穏やかで美しい。ペッパーライクな辛みとグリーン系のビターノートは和らぎ、柔らかくみずみずしいパッションフルーツの甘酸っぱい果肉の匂いが立ちこめてくる。
船は未開の部族の村についた。フンボルトらは敵意がないことを知らせるために両手を挙げて、ゆっくり村に近付く。通訳者が村長に必死の説明をする。目の奥に厳しい光をたたえたインディオの長は、フンボルトの目の奥をのぞきこむ。フンボルトもまた友好的だが力強い視線を返す。
そのとき、酋長は大きく手を振って弓や槍を構えていた戦士たちの武器を下ろさせる。同時に、物陰に隠れていた女達が出てきて歓迎の宴の準備を始める。たくさんのフルーツや獣の肉が運ばれてくる。子どもたちがわらわら出てきてもの珍しげに探検隊の周りをとり囲む。
付けてから6〜8時間、ビターグリーンな植物の影に縁取られながら、フンボルトは穏やかなパッションフルーツの香りを漂わせてドライダウン。それは大自然の中を冒険しながら、植物と動物の繋がり、さらに人との繋がりも確認していったフンボルトの足跡。彼自身のシヤージュ。
全体的に見ると。同じパッションフルーツをフィーチャーした同ブランドのンブクルジャーがミルキー&フルーティーな果実香だとすれば、こちらは森のビターグリーンな香りの中にパッションフルーツを置いたようなイメージ。慣れるとこちらが好き、という方も多い人気の香りだ。30ml新キャップボトルで17600円。
褐色のインディオの手から円くてつるっとした果実が手渡される。それは親愛の印。果実を割ると、黄色のキラキラしたつぶつぶの果肉が出てきた。
森の中で共に食べる。笑顔が世界をつなぐ。パッションフルーツの爽やかな香りがしている。
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