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- 56歳
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2022/6/11 02:03:07
”遥か遠くへ まだ遠くへ 僕らは身体も脱ぎ去って
まだ遠くへ 雲も越えて まだ向こうへ”
ルイ・ヴィトンのイマジナシオンを初めて肌にのせたとき、心に美しいメロディーが流れた。澄んだ声が空や海の無限の広がりを感じさせるヨルシカの「老人と海」。その名のとおり、ヘミングウェイの小説をモチーフに作られた歌。
”靴紐がほどけてる 木漏れ日は足を舐む 息を吸う音だけ聞こえてる”
靴紐がほどけている人は、満足に漁ができなくなってきた老漁師サンチアゴの姿に重なる。あるいは「靴紐」じたい、彼が壮絶な死闘の末に仕留めた巨大なカジキを小舟にくくりつけたロープなのかも知れない。その先にあったはずの希望が、サメの襲撃によってほどけて絶望になった瞬間…。
香水の香りは、こんなふうにさまざまな映像や記憶、風景を心に映し、音楽を喚起し、イマジネーションを広げてくれる力をもっている。イマジナシオンと名付けられたこの香水には、そんな思いがこめられているのだろう。
ルイ・ヴィトン香水のメンズライン、7番目の作品イマジナシオン。イマジナシオンは2021年の発売以来、メンズ香水のシリーズながら、SNSの投稿などを見てもかなり女性ファンも多い香りだと感じている。では一体、どんな香りなのか?
イマジナシオンを肌にのせる。その瞬間、最初に感じられるのは、爽やかなベルガモット、ジューシーなシトロン、ほんのり甘いマンダリンのきれいなシトラスミックスだ。いつもながらヴィトン香水のトップは、高品質でまろやかな天然柑橘スプラッシュで感動すら覚える。
ほどなくシトラスの下から甘くふくよかなネロリの香りが広がってくる。ここまでがとてもシームレスで美しく、ジェンダーレスな展開。ネロリのふんわりフローラルが5分ほどで安定してくると、その下から2つの香りがしっかり主張してくるようになる。
1つは、わずかにスモーキーで渋味のあるスッキリしたティーノート。スモーキーなティーと言えばブルガリブラックなどで使われたラプサンスーチョンティーが有名だが、こちらはいわゆる正露丸っぽさはなく、かなりおさえている印象。そしてもう1つは、海や潮風を思わせるアンブロックスの香り。アンブロックスはアンバーグリス系香料の1つで、同系統のアンブロキサンよりも「海っぽいダシ」がひかえめで、スッキリ上品な潮風系。この2つが二重らせんのようにスパイラルに感じられてくる。
「スモーキーなブラックティー」×「クラウディーなアンブロックス」。この2つの取り合わせは、ジャックが名声を手にした記念碑的作品であるブルガリ・プールオムに対する自身のオマージュになっているかのようだ。ブルガリ〜では、透明感あるダージリンティーの高音の下でソーピーなムスクを取り合わせ、2つをペッパー等のスパイスがつないでいた。イマジナシオンではこの位置関係が逆転している。つまり、本来重たくなりがちなアンブロックスを澄んだ高音で鳴らして、低音部でスモーキーなティーを響かせているイメージ。この2つをつなぐスパイスは、温かみあるジンジャー&シナモンのミックスだ。
そして
イマジナシオンは、パルファン・デ・コローニュ最初の3作品「黄色のサンソング」「緑のカクタスガーデン」「青のアフタヌーンスイム」を合わせたスペシャルコラボな香料構成になっていることにも気付く。この3作品のキー素材は、サンソングがネロリ、カクタス〜はティー(マテ)、アフタヌーン〜はアンブロックス。3作品に割り振られたレモン、ベルガモット、マンダリンの柑橘も全てミックスされている。これは「夢のカリフォルニア全部のせ」香水に他ならない。
さらに
各ノートの心に対する作用を見ても興味深い。一般にシトラスにはRefresh作用、ティーノートにはRelax作用がある。そして母なる海の匂いアンブロックスにReborn作用があると捉えるならば、イマジナシオンは心を回復し、落ち着かせ、そして再生させる香水だと言える。この3つの”Re"が効くから、心は再び大空や大海原へ、無限の想像力の翼を得て飛び立つのだろう。持続時間は6〜7時間。香り立ちは柔らかく主張は弱めだが、穏やかなティー&アンブロックスの香りをかなり長く楽しめる作品になっている。
”風に乗って 僕の想像力という重力の向こうへ まだ遠くへ まだ遠くへ 海の方へ”
ヨルシカの澄んだ声が水色の空と海の間へ吸い込まれていく。
どこまでもいこう。まだ見ぬ世界を求めて。大好きな音楽と古びた文庫本を持って。
7つの海を想像力の翼で越えていけ。ルイ・ヴィトン、イマジナシオン。
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- Cookieyukiさん
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2022/6/1 23:51:16
懐かしい香り。90年代に大ヒットして色々なところで嗅いだし、イザベラロッセリーニにがモデルに起用されていたのが印象に残っている。なんでも調香師ソフィアグロスマンが広告塔がイザベラロッセリーニだと聞いて、自信作を情熱的に売り込んだとか。
トップはピーチとアプリコットブロッサム。桃を木からもぎ取る時に焦って枝まで折ってしまったかのようなグリーンな匂いが混ざっている。ポキっとあっけなく折れたのではなく、弾力があってなかなか折れないのをやっと折った茎のよう。それが未熟なピーチの果実とアプリコットの花の香りなのかも。少しだけアクとエグみを感じる。
そしてフローラルが加わる。薔薇、ジャスミン、鈴蘭、ライラック。ライラックと鈴蘭はグリーンさとフルーティさの両方を持ち、フルーツと花を上手に繋げている。甘味でありながら爽やかで初々しい。パウダリーさはアイリスか。
ラストは柔らかで女性らしい香り。女性性を謳歌しているイメージ。確かに熟したピーチとアプリコットの香りはするが、アンバーが加わることによって洋酒感のある大人の香りになっている。フルーツ系の香りは10代が好きな香りだが、それよりもぐっと大人びた香り。可愛らしい少女のような雰囲気が残る人なら何歳でもつけられそう。面白いことに実際に可愛らしい少女達には似合わない。言ってみれば成熟した女性が遠くから自分が若くて無邪気だった時期を眺めているみたいなところがある。
私がつけるとなぜか青臭さが目立つことが多いのだが、苦笑いしてしまう高校時代の思い出と繋がるので時々つけてみる。発売が1990年なので私の高校時代よりも後であり、本人がつけていなかったのにもかかわらず、ある人物を思い出す。
それは色づきだした桃みたいなほっぺのC子先輩。トレゾァの桃の香りを擬人化したら彼女なるだろうと思わせる。
高校2年生の時かなりの確率で私の席は窓際だった。毎週2回クラスメートの男の子が席を変わってくれという。嫌だ。H先生の理科の授業はお日様の程よく入る窓際で昼寝と決めている。
「あのさ、ただとは言わないぜ。ほら、これ」
彼が鞄からゴソゴソ取り出したものは…
「母ちゃんの特性唐揚げだ。お前に全部やるから席替われよ。」
彼の母ちゃんの唐揚げは夢のように美味しい。食欲が睡眠欲に打ち勝った。音速で。
唐揚げで買収された私はH先生の真前に座り質問攻めの餌食に。まあいいか。唐揚げ手に入れたし。気づくと毎週2回の理科の授業のときに何人もの男子たちに席を変わってくれと頼まれるようになった。当然お弁当のおかずと引き換えに。でもなんでうちのクラスの男子たちは理科の時間に窓際に座りたいんだろう?
せしめたお弁当のオカズを教科書で隠してつまみ食い。当然バレて叱られる。その時「ファイトー!」と外で黄色い声。体操服にブルマ姿の女子高生たちが集団で走っている。そこにはボンキュッボンで有名なC子先輩の姿が。私は女なので彼女の身体はどうでもいいのだが、思わず触ってみたくなるような熟しかけた桃のようなほっぺは羨ましいと思っていた。
ふと気付くと窓際の席は全部男子たちで占領されている。当然誰も授業は聞いていない。
「あーあ、彼女と付き合えないかなあ」
うちのクラスの男子たちは独り言がやたらとデカい。
C子先輩は卒業するまで我がクラスの男子たちのの夢を膨らませ続けた。そしてお弁当のオカズで買収され続けた私のお腹も膨らみ続けた。
ところで若い女性特有の匂いとして桃の香りと成分が同じものがあるらしい。
待てよ?それなら私がトレゾァつけても匂いだけなら若い女性になれるんじゃ?年齢を重ねた女性は若い女性がさらに大人になったものだし。確かに表面は干からびかけてはいるが、まだ芯のところは若いのでは?
私は後ろ姿だけが美人だ。決してスタイルがいいわけではない。やたらと若々しい髪の毛のせいだ。脳に行くはずの栄養が全部髪の毛に投入されるため未だに髪だけ真っ黒で艶々。他は全部いい感じに枯れている。一瞬のすれ違いざまなら魅力的な若い女性と勘違いしてくれるかもしれない。でも前に回られて「チッ、ババアか」とか言われたら悔しいな。
あっそうか。
サッと通り過ぎた後、絶対に追い抜かれないように早く走ればいいんだよ。
というわけで逃げ足が異常に早くなった今日この頃。
トップノート: ピーチ、アプリコットフラワー、ライラック、ローズ、鈴蘭、ベルガモット、パイナップル
ミドルノート: ローズ、 アイリス、ヘリオトロープ、ジャスミン
ラストノート:ピーチ、アプリコット、サンダルウッド、バニラ、ムスク、アンバー
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- 56歳
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:75ml・13,750円 / 150ml・21,450円発売日:-
2022/6/4 00:19:14
アクアディパルマのミルトは、シトラスシャワーの爽快感とほんのり清涼感のあるハーブ香のミックスが楽しめるオードトワレだ。価格は30mlボトル9900円。
◎どんなときにおすすめ?
・何といっても夏。盛夏もいいが、夏に向かって気温と心の高揚が高くなってくる時期にとてもいい。「もうすぐ夏!」気分を積乱雲のように上げてくれる。
・スーツからシャツに衣替えする時期によく合う。サッパリした柑橘&アロマティックな香りは天然香料多めで、香り立ちが柔らかい。オンでもオフでも、しっかり清潔感をアップさせてくれる。
・どちらかというと男性におすすめ。単なるシトラスではない、少しひねりの効いた香りが欲しい方に試してみてほしい香り。
◎このの香水のよさを3つあげるとしたら?
・「碧い地中海シリーズ」と謳うだけある美しいブルーのボトル。この色だけで本当にそそられる。観葉植物の脇にそっと置いてあるだけで部屋のインテリアとしても映えるボトル。
・イタリアのシトラスをふんだんに使ったトップの爽快感が超絶いい。ナチュラルな香りで気分をリフレッシュするのにぴったり。トップのシトラスだけでイタリアに行きたくなる。
・ミドルで出てくるハーブが割と珍しい香り。ミルトとはマートルのこと。和名ギンバイカ。この葉と枝から抽出した精油は、ほんのりシャープで甘さもあって心を沈静させてくれる。また、免疫力の向上、抗菌・抗ウィルス作用も高く、アロマテラピーの効能的にもかなり優れている。
▲逆に自分的に「うーん」な点
・トップのシトラスミックスがかなり天然香料多めなので、あっという間に消失してしまう点。多分2分ももたない。この変化は昔ながらの香水では常識だけれど、昨今の合成香料オンリーのワンノート(最初から最後まで同じ香りが続く)に慣れた人には、不向きかもしれない。ミルトのシトラストップは女性にも結構好まれるが、ミドルになるとかなりメンズ寄りになるので、購入を考えるなら、必ず自身の肌にのせて香りの変化を見るべき。トップの爽やかさだけでこのトワレを語ると失敗する。天然香料多めの香水は、人によって香り立ちがかなり変わるからだ。
○香りの展開
トップ。レモンの酸味とマンダリンのジューシーなオレンジ果汁み、ライムの苦味、ベルガモットの豊かなコクが一気にスプラッシュする爽快なシトラスシャワー。とても快活で爽やか、気分がリフレッシュする。
ほどなくレモンの酸味は飛び、わずかに甘いオレンジの香りが際だってくる。同時に、その底からほんのり温かみのあるグリーンなハーブ香が立ちのぼってくる。これがミルト、つまりマートルの香りだ。
マートルは、ユーカリやティートゥリーなどと系統が似ている常緑低木で、シャープな香りが際だつユーカリの香りを甘くしてライトにしたような芳香をもつ。香料抽出部位は枝と葉だ。このほんのり清涼感あるグリーンハーバルな香りが主張してくると、香りはミドルになる。マンダリンのジューシーな残香に、甘さを伴ったマートルのハーバルがしっとり寄り添ってきて気持ちが安らぐ。そこにジャスミンのふくよかさが華を添えてくるミドル。
つけて30分くらいすると、ジャスミンのふんわりした残香にマートルのグリーンな清涼感が効いたまま、次第にウッディノートが強くなってくる。シトラスの酸味と乾いた木の香りをベースに、シャープなハーブとまろやかジャスミンが主旋律を奏でるアコードとなり、時折日本の菊の香りを思わせる風合いにも感じられる。強い海風に負けず、硬い大地にしっかり根を生やして地中海の丘に立つ木、そんな強さとしなやかさを感じるマリン&ウッディベースが感じられたらラスト。ハーブのスッキリした香りを残しつつ、3時間ほどでドライダウン。
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イタリア。シチリアの東北部にあるパナレア島。ミルトはこの島に育つマートルの木にインスパイアされて作られた香りだ。そこは、ゴツゴツした茶色の岩肌と透明感あふれる碧い海が美しいコントラストを見せるセレブ御用達の小島。火山の斜面に立ち並ぶ瀟洒な白壁の別荘。その間を縫う迷路のような石畳の小径。海に向かって続く白塀の上にはピンクのブーゲンビリアが咲き乱れ、その向こうに紺碧の海が見渡せる。岩だらけの崖の間には、マートルの緑の葉が強い日射しを浴びて風に揺れている。
ここは、火を噴き続ける島ストロンボリを見張る、風の神アイオロスの治める地。
この地を彩るのは、太陽のシトラスと、碧い海風のマリンと、茶色い岩肌の間で緑の葉を揺らすシャープなミルトの香り。
ミルト・イン・パナレア。この香りに目を閉じれば、そこはいつも紺碧の地中海だ。
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2022/5/21 18:03:13
ゲランのフレンチーラヴァンドは、クラシカルなラベンダーコロンを上質に仕上げた風合いの香水だ。発売は2021年、価格は100mlニューボトルで46200円。
◎どんな人、どんなときにおすすめ?
・まず何と言っても、この香りのターゲットである男性。自分の身丈に合ったスーツをパリッと着こなした30代〜50代の男性におすすめ。爽やかで知的、同時に周囲へのさりげない気遣いができる男性に。
・メンズ寄りではあるものの、キリッとしたシトラス&ハーブの香りと同時に、優しさと可憐さのあるネロリも感じられる香水なので、シンプルで上質なパンツスーツ、白シャツやタイトスカートをさらりと着こなす女性にもおすすめ。
・オンオフで言えば、オン向きにも使える香り。しっかり背筋を正していたいときに。
・フランス産のラベンダーが一斉に開花する6月〜7月に合わせた旬の香りとして。また、気温が上がる時期にクール&シャープなアイコンを印象付けたいときにも。
◎この香水のよさを具体的に3つあげるとしたら?
・世界最高とされるラベンダー、フランスのプロヴァンス地方の真性ラベンダーを使用していると思われる点。真性ラベンダーは冷涼な高地で咲き、他のラベンダーがもつシャープさや青臭い雑味がなく、フローラル感あるリナノール、フルーティーな酢酸リナリルがしっかり感じられる特徴をもつ。このラベンダー香はいい。
・ジュース色がとても心惹かれるブルー。ラールエラシリーズの中にあっても、この香水の色は特別に目を引く淡いブルーで、新ボトルの洋酒ライクな造型と相まって、涼しげで美しい。
・ゲランのメンズ香では珍しいアロマティック系の香水であること。現在ゲランメンズ香の主流になっているロムイデアルシリーズよりも、ライトで包容力のあるアロマティックフゼア系の香りになっている。これなら人と香りがかぶることもあまりないだろう。
▲逆に「ここはどうかな」と感じる点
・よいラベンダーを使っているが、ミドル以降、香りがメンズ寄りになっていく点。最初はシトラスの力で爽やかに開幕するので女性にもつけられそうな期待感が増すけれど、この香水は次第にメンズ香水独特の重たさ、よく言われる通称「トニックっぽさ」が出てくる。いわゆる「いい男」が付ければかなり惹きつけられるヤバめな香りになるが、つける人によっては、男女問わず「おっさんキター」のパラメータを上げてしまう可能性も。そういう意味で、香りが付ける人を選ぶようなタイプではあると思う。
○香りの展開
フレンチーラヴァンドをつけると、まず感じられるのは、「あぁ」と声が漏れるほど美しいレモンとバーベナのシトラスミックスだ。クリーミーで明るいバーベナがかぐわしく、レモンの酸味と相まってとても心地よく感じられる黄色いトップ。このトップはとてもフレッシュで、風と太陽の光を感じるようなナチュラルな香り。
ほどなく、シャープな葉の香りをもつプチグレンと、セージの涼しげなハーブ香が顔をのぞかせてくるとミドル。同時にほんのり甘さのあるフローラルなハーブも出てくる、これがキー素材のラベンダー香だ。このラベンダーの何とまろやかなこと。天然香料をふんだんに使っており、シトラスもハーブもラベンダーも、柔らかいのに奥深い香りがする。
ただ、このミドルは徐々に重さを増していく。クリーミーなシトラスが消失すると、代わりにネロリの甘くふんわりした香りが感じられるようになる。このネロリはわりにゴムっぽいファセットが強い。もしかしたらジャスミンのインドールかもしれない。そこにベチバーの土感、草感も出てきて、後半はメンズ寄りウッディになってくる。
ラストは青空や海の青を感じさせるわずかなアンブロクスとベチバーのミックスでドライダウン。つけてから4〜5時間。シトラス以降の香り立ちは比較的穏やか、ラベンダーも樟脳っぽさが少ないフローラル系統で、紫と言うよりも淡いブルーな香りに仕上がっている。
フレンチーラヴァンドの香りに、遠いプロヴァンスのラベンダー畑を思う。
フランス、プロヴァンス地方は、世界最高のラベンダー畑があることで有名だ。どこまでも続く紫色の絨毯は、冷涼な気候と乾いた土壌がもたらす極上のヒーリングゾーン。人は昔から、心が疲れると身の回りに青や紫色を置きたくなるという。ラベンダーは、その癒し効果抜群の香りだけでなく、色によっても心に寄り添っているのだろう。
すずやかな風が吹いている。見渡す限りの紫の畑、1本1本のラベンダーが空に伸びている。それはまるで、紫の小さなエッフェル塔の群れだ。
プロヴァンスの広大な大地、何千億もの小さなエッフェル塔が、青空に向かってまっすぐ立っている。
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2022/5/28 08:53:57
400本めの香水レビュー。ここまでちょうど9年間、書き続けてきた。週一度1本ペースだから、レビュー数じたいは多くはない。それでもその1本を書くために、香料分析、背景リサーチ、比較検討、推敲編集やらで、1本につき平均6時間はかかってるから、9年で400×6=2400時間は香水の勉強をしてきたことになる。←そのわりにわかってないけどな
珍しい機会なので、その400本の中から心に残っている香水をほんの少しまとめてみる。
◎最もリスペクトしたクラシック香水3本
・シャリマー(ゲラン) ・ルールブルーEDP(ゲラン) ・N°9(シャネル)
◎最も心に突き刺さった香水2本
・ラペルトワ(ラルチザンパフューム) ・フェミニテ・ドゥ・ボワ(セルジュ・ルタンス)
◎最も偏愛して日常使用してきた香水
・エンジェルEDP&EDT(ミュグレー) ・コローニュロワイヤル(ディオール)
◎出す作品どれも恐ろしくできがいいと思う香水ブランド
・ピュアディスタンス ・フラッサイ
◎400書いた中で心に焼きついているレビュー3つ
・ラペルトワ(ラルチザン・パフュ―ム) ・エンジェル(ミュグレー) ・ロストチェリー(トム・フォード)
世界中で年間何万本も新作が生まれる香水業界。その中にあって、これまで出会えた香水はまさに「ご縁」。そんな中、紹介する400番目の香水は、初めからちょっと「ごめんなさい」しておきたい作品。なぜなら日本未発売かつ限定品という超入手難しい系。たぶん自分も、この先もう1本ストックを入手することはできない。そういう意味では本来紹介するつもりはなかった香水。ただあまりにも香水としてできがよく、個人的にもラペルトワに匹敵するほど美しく、自分の性癖にぐっさり刺さった香りなので、このまま誰にも知られず消えていくのは悲しいと思ったから、そっとここに置いていく。
それは、フランシス・クルジャンが2015年にパリの百貨店プランタンの150周年記念のためだけに製作したル・ボー・パルファム。この香水は自分の中で特別すばらしい作品、極上品。星をつけるなら☆7満点のところ、☆70はつけたい香水。ただそれはもちろん自分にとっての超どストライクであって、貴方にとって好きな香り、またはベストマッチとは限らない。香水に「万人に好かれる香り」なんて存在しないからだ。
ルボーの香料イメージはシンプルだ。クレジットによると以下のとおり。
インドのチュベローズ&ジャスミン、チュニジアのオレンジブロッサム、マダガスカルのイランイラン。いわゆる濃厚なホワイトフローラルブーケ系統の香り。
ただ使用している花の香料はどれも高品質ですばらしく、同時にそれらを際立たせるための「つなぎ香料」が超絶いい。しかもナイスバランス。はっきり申し上げる。さすが天下のプランタン。これを作らせるために、クルジャンにどんだけ対価を支払ったのだろうというくらい、スペシャリティ香料をふんだんに使用しているように思う。つまり「売っても赤字」なくらいゴージャス&センシュアルな出来。だから周年記念の限定香水なのだろう。
ルボーを肌にのせる。その瞬間、あまりに甘くかぐわしい花の蜜の香に脳がよろめく。体がふらつく。矢吹ジョー渾身のクロスカウンター一発もらった気分。腰からくだけ落ちる。花園に倒れこむようにマットに沈む。お花畑で好きな女の子を追いかけるスローな白日夢を見る→人間終了。な開幕。それほど左脳崩壊で言葉にならない美しいフローラル爆弾なトップ。
それでも、カウント9でギリギリ立ち上がって香りを分析するなら
ルボーは偏愛するラルチザンのラペルトワにインスパイアされて創ったのでは?と思うくらい雰囲気が酷似している。クリーミーガーデニア&山椒という「花の優しさ&スパイスの棘」の取り合わせで、内面の感情を激しく揺さぶるラペルトワ。その山椒部分をごく微量のキャラメルノート&シナモンが代替するような形で、白い花束に甘いグルマンを補完している。これがたまらない。クルジャン、あなたさてはラペルトワのベースをヒントに、同ラルチザンのアムールノクターンを組み込みましたね?と言いたくなるくらい。わからない方はわからなくていい。これはほぼ自分にあてた周年記念レビューだ。
サイレージは5時間程度。ジャスミンの残香強めでルボーは消えてゆく。ルボーは「プランタンおめでとう!」で作られたけれど、その甘くてノーブルで、どこかノスタルジックなクリーミーな花束は、プランタンとクルジャンがあなたに贈る感謝の花束の香りだ。
いつもありがとう
あなたのおかげで 今があります
あなたの一日が 美しい香りに包まれますように
おめでとう あなたへ
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