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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2023/9/29 07:22:40
その日、彼女は上司に怒鳴られた。大口の取引先で案件を一蹴され、帰社したときのことだ。
「はぁ?お前、あそこ取れなかったらうちの会社どうなるかわかってんの?なんで帰ってきてんだよ!」
「すみません。」表向き平身低頭しつつ、心の中で舌打ちする。
(そんな大事ならてめぇで取ってこいや。それにあたしは「お前」じゃねぇし。)
上司は「大体お前はさ」とねちねち小言を続けた。彼女は周囲の冷笑をうなじのあたりに感じて、次第に体がこわばるのを感じた。バンッ!上司が机を叩いた。
瞬間、心が硬い殻に覆われた。そのとき彼女はサナギになった。
会社を出たのは真夜中。気付いたら駅を出てネカフェの前に立っていた。今夜は部屋に帰れない。ここに籠って、明日朝イチで件の取引先に再特攻をかけるしかない。てゆーか、そうしろと言われた。
完全鍵付き個室が1室だけ空いてて神に感謝した。クタったパンプスを脱いでスーツを壁にかけたら、一畳ほどの空間が自分専用シェルターになった。手早くドリンクを調達し、食べたい物をオーダーした。返す刀でPCメールを起動。予想どおり先輩から雑事の催促メールが来ていた。メンタルやられてんの知ってるくせに遠慮ない。てか、むしろ涼しい敬語で上乗せしてくる。それが社畜の常道だ。即返しないと後が怖いのでピザかじりながらレスした。それを終えた時、今日初めて力が抜けた。腰がずり落ち、首とまぶたが船をこぎ始めた。ヤバい。寝落ち寸前。でもまだ終わりたくない。何もいいことがないまま、今日を終えたくない。そうだ。
バッグから1本の香水を取り出した。銀の試験管型ボトルに金のチャームが揺れる。ネットで最新香水を探して見つけたピュアディスタンスのパピリオ。「蝶」という名の香水。きっかけは「パピリオのうた」という詩だ。「自分を抱きしめて」とか「飛べ」とかメンヘラ女的にスルー言葉が並んでたけど、とあるフレーズが厨二心にぶっ刺さった。
「世界を牢獄のように感じるとき 生き地獄のようなとき その傷だらけの羽を広げ 機能不全のカルーセルから飛び去れ」
ああほんと、社畜は牢獄、生き地獄だよ。こんなんで飛べるわけないじゃん。無理だよ無理。でも…
「機能不全のカルーセル」って、なんかいい!カルーセルってぐるぐる回る終わらない円環だよね。あれだ。ハムスターが走り続ける回転車。あれ絶対ゴールできないのに、ずっと輪っかの中を走り続けてさ。バカだよな。…って、今のあたし同じじゃん…。
そう思ったら急に苦しくなった。そして気付いたらポチっていた。
真夜中の狭い個室。PCモニターが深海探査艇ののぞき窓のようにぼうっと青く浮かび上がっている。その絶対的孤独の中で手首にパピリオをプッシュした。瞬間、まばゆい金色の粒子がはじけて、室内の空気が柔らかくなった。すかさず手首に鼻を押しつけた。
はぁ… たまんねぇ。 思わずオヤジみたいな声が漏れた。何かキメてぶっ飛んでるヤツみたいに、口が半開きになった。
ふわりと宙に舞い上がるベルガモットの酸味。そこにヘリオトロープがシンクロしてパウダリーをまき散らす。そのアップダウンは確かに蝶の羽ばたき。明滅する色とりどりの香料が、蝶が拡散する鱗粉に思えるトップ。
「これマジやべぇ…」言いながら、空中にシュッ、シュッとパピリオをスプレーし、芳醇な香りのシャワーを頭からたっぷり浴びた。パピリオのフルーティーなミストが、髪と顔とブラウスに降り注ぐ。それは心を覆った固いサナギの殻を溶かした。やがてパピリオは、ほの甘いマグノリアを奏ではじめ、軽やかなレザー香を纏って、さらなる進化をうながしてゆく。いつしか眠りの世界に誘われ、夢を見た。
人がごった返す遊園地。彼女は6才で、背中にピンクの蝶の羽がついたドレスを着て空を飛んでいた。だが次の瞬間、地に落ちた。視界から全ての人が消えた。慌てて周囲を見回した彼女は今のアラサーに戻っていた。ただ背中のピンクの羽だけは小さいままで、何度羽ばたいてももう飛べなかった。怖くて走り続けた。でも必ず元の場所に戻ってしまう。グルグルの堂々巡り…。そこで目覚めた。
個室の中にはパピリオの柔らかなラストが流れていた。優しくて懐かしいパウダリームスクの香りがした。眼前のモニターに寝ぐせ頭の女が映っている。それを見たら少し笑えて、ぽろぽろ涙がこぼれた。
今日、上司に怒鳴られた。でももういい。どんなにやられても「今日も死なない!」って行くしかない。何度も固いサナギになって、いつかはパピリオになってやる。この機能不全の社畜カルーセルを抜けて、ドヤ顔で世界を飛び回るために。
だから今は眠ろう。ここは社畜のコクーン。夢見る繭。見るは儚い胡蝶の夢。
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Maison Margiela Fragrances(メゾン マルジェラ フレグランス)
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:10ml・5,280円 / 30ml・11,880円 / 100ml(リフィル)・19,800円 / 100ml・23,540円発売日:2013年12月 (2023/4/13追加発売)
2022/4/23 09:56:07
レイジーサンデーモーニングは、メゾン・マルジェラの香水の中でも、特に日本人女性に人気の高い「石けん系」の香りがする香水だ。サイズは10ml、30ml、100ml展開。最近はお試しサイズ的な10mlの人気が高い。価格は税込4180円。
◎どんなとき、どんな方ににおすすめ?
文字どおり、休日の午前中。まだベッドの中でシーツとブランケットにくるまったまま、ゆっくりしていたいときに。素肌や下着にプッシュするのもいいし、枕カバーやシーツに吹いてリネンウォーターっぽく使うのもいい。さっぱりとした清潔感ある香りを探している方に。特に女性向け。
◎この香水のよさを4つあげるとしたら?
・「素肌とベッドリネン」を表現した香りだけに、自分につけることで、リネンや下着、白のシャツやブラウスなどに、洗い立ての清潔な柔軟剤っぽい香りをプラスできそうな点
・ほのかな洋ナシの香り&スズラン様のホワイトフローラル&サボンな香り。みずみずしくスッキリした「白」のイメージを香りで表現できそうな点。
・「ザ・香水」的なアプローチでなく、シャンプーや石けんの残り香的にさりげない「身だしなみ」的な印象を作ることができそうな点。
・10mlサイズがあること。価格的にはやや高くなるものの、トラベルサイズはバッグにそのまま入れてアトマイザーになるし、お試しで使う量としては必要かつ十分。
▲逆にちょっと「うーん」な点
・「清潔感」ある香りだが、かなり洗剤や柔軟剤、漂白剤や石けんといったトイレタリー商品(トイレじゃないよ)の匂いに傾いている。つまりケミカルさが強い香り。そうした洗浄系製品の匂いを再現したであろうメタリックなアルデハイドや、石けん系ムスクの香りが、ときにきつく感じられるときがある。ともすると頭痛がして受け付けない方も多そうな人工的な香り。
・リネン系統の清潔&フローラルがお好きな方には、すでにエスティー・ローダーのホワイトリネンという名作があるのでそちらがおすすめ。また、この香水以上に安価で強い石けん香が売りのCLEANの香水群やサボン系香水が星の数ほど出回っているので、安価な代用品がいくらでもあること。
・よく似た香りでジョー・マローンのイングリッシュペアー&フリージアやバイレードのブランシュがある。オリジナリティが低め。
◎背景(ブランド 調香師)
・メゾン・マルジェラの香水は「レプリカ」と名付けられ、思い出の時間、場所、香りの記憶を「複製・再現」するようなアプローチで作られている。レイジーサンデーモーニングが映し出すのは、2003年イタリアのフローレンスで迎えたすがすがしい朝の空気感。調香師は、キャロライナ・ヘレナのグッドガールやトム・フォードのドル箱香水、ロストチェリーで一躍名を挙げた女性調香師ルイーズ・ターナー。
◎展開
トップ。つけた瞬間、スッとアルコールの香りが抜ける。オードトワレ濃度なので、透明な風が一瞬吹き抜けるようなオープニング。そこからすぐに出てくるのは穏やかでウォータリーな洋ナシの香り。このトップはとても柔らかくみずみずしい印象。
少しすると、ほんのりグリーンが効いたスズランの香りが感じられる。と同時に、キンキンしたメタリックな酸味がその上をオーバーラップしてくる。シトラスのようで、ラムネのようで、あるいはカーフレグランスによくあるスカッシュ系のような香り、これが強く出てくる。これはアルデハイドの一種だ。ここで使われているのはアイロンをかけたような金属っぽさを感じるタイプ。「酸味が出たな」と感じたら、これが出てきたミドル。クレジットにはローズやオレンジフラワーなども書かれているが、このアルデハイドの主張が強め。
やがて清潔なランドリーノートに、ツンとした苦味をもった石けん様のホワイトムスクが重なってくるとラスト。温度が上昇し、人肌の温かみを感じさせる。硬く冷たかった昨夜のシーツが体温で温められ、寝返りを打つ度に柔らかくなって、心地よく自分を包んでいる。そんなぬくもりの朝。次第にカーテンの向こうが明るくなっていくように、サボン香が高くなっていき、3〜5時間でクロージング。
・・・・・
目覚めたら休日の朝。今日は鳴らない目覚ましの音。安堵。もう起きようか。寝返り。まだいい。もう少し布団の中でうだうだしていよう。布団もシーツも枕も、体温と同じ感じに温まって、もう一人の自分に包まれているような感覚。
久々の休日。一番わがままでいたい時間。
あと少し。少しだけ。そしたらゆっくりこの優しい繭の中からはい出していこう。枕に顔をうずめる。柔らかなサボンの香りがしている。このままずっと。こうしていたい。まどろみのひととき。
レイジーサンデーモーニング
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:50ml・4,950円 / 100ml・6,820円発売日:-
2022/9/17 08:56:55
ロジェ・ガレのジャン・マリ・ファリナは、世界最古の香水「ケルンの水」の門外不出レシピを受け継いだ「伝説のオーデコロン」だ。100mlで6820円。
◎どんな方、どんなときにおすすめか?
・歴史と伝統に培われた本物にこだわりたい方
・よい香りは好きだけど、昨今のケミカル香水や柔軟剤の香りに辛い思いをしている方
・薬効を考えた天然香料の穏やかな香りに癒されたい方
・TPOを問わず、一瞬でリフレッシュしたいときに
・自然なフルーツやハーブの香りを「一瞬だけ」楽しみたいときに
◎この香水のよさを3つあげると?
・目の覚めるようなシトラスから始まり、ハーブ→フローラル→ウッディへと、軽やかな天然香料のやさしい香りが短時間にあっという間に変化していく伝統的なピラミッド構造をもっていること。それは、果実→葉→花→木と、植物全体の命の香りをめぐる自然な変化の道すじ。
・香水の始祖としての歴史を守り続けていること。1693年にジョバンニ・パオロ・フェミニスが、18の薬草をブレンドして創った万能薬「アクア・ミラビリス(驚異の水)」。この薬効を受け継ぎつつ、甥であるジャンマリファリナが世界初の香水として誕生させたのがこのオーデコロン(ケルンの水)だ。以来、幾多の模倣品が続出するも、決してたどりつけなかった「ケルンの水」の極秘レシピ。この最大の秘密を唯一受け継いだのがロジェ&ガレであったこと。
・安くて賦香率が低いため、バシャバシャ浴びるように体中につけられる点。賦香率が低いので周囲に迷惑もかけない。香水は「安くていい香りで気分があがる」のが絶対テンプレ。特に初期オーデコロンはアロマテラピー由来であり、「薬」としての概念を受け継いでいるため、心と体にもやさしく作用する。
▲逆にここは「うーん」と感じる点
・すぐ消える。もって30分。跡形もなく。これはオーデコロンの宿命。だからこそこの「ケルンの水」の発明以来、世界中の調香師はあらゆる方法で「長持ちする香水」や「最初のシトラスが長続きする香水」を求めて、香料抽出方法の進化や人工香料の発明にいそしんできた。この「すぐに消える」点をどうとらえるかはもちろんその人の価値観次第。自分は世界中にあふれている「オーデパルファム表記なのに1時間で消えるし、そのくせ3万円以上する香水」は万死に値すると思っているが、安くていい香りがするオーデコロンがそれなりに短く消えてしまうのは当たり前だと思っているのでむしろ好感度は高い。
○香りの詳細(つけてからの展開)
・つけた瞬間、広がるのはレモン、ベルガモットのシトラスシャワー。鼻を通して脳髄の奥まで染み渡るフレッシュな酸味に気持ちが高鳴る開幕。すぐにマンダリンのジューシーな甘さ、レモングラスの酸味と草感などが出てきて、スッと鼻を抜けていくトップ。
・ミドルはつけた瞬間から香り出していたラベンダーの清涼感が、タイムのドライ感、ローズマリーの香ばしい香りを引き出してくる。そこにプチグレンの葉の香り、オレンジフラワーの甘い花の香りが少しずつ混じり、ローズやゼラニウム系のフローラルがかすかに奥にある気配。ベルガモットの酸味とコクの下で、アロマティックとフローラルがバランスよく鳴り響くアコードが感じられてくる。
・つけて10分もするとシトラスは完全に消え、フローラルも見当たらなくなる。ドライ&スパイシーなハーブミックスの下からベチバーっぽい土感やサンダルウッド様の木の香りがしてきてドライダウンに向かう。この点、ネロリでスッと消えてゆく軽やかな4711よりもウッディで低い終わり方をする分だけ、若干持続時間は伸びる。といっても20〜30分でほぼ消失。
世界で初めて香水を創った人物、ジャンマリファリナ。彼はイタリア出身でありながらドイツに渡り、香水製造で貢献したことが認められ、当時入植者に厳しかったドイツで市民権を得られたという。彼はその感謝をこめて、自身が香水店を出したケルンという土地の名を冠し「オーデコロン(ケルンの水)」と名付けた。当時、フランス語が主流であったヨーロッパ社会にこの名はとどろき、以後ナポレオン一世がことのほかこの香りを気に入って愛用したとされるいわくつきの香水。ロジェ・ガレは創業以来160年、この伝統的な処方を守り続け、今なおジャンマリファリナの名を世界に知らしめている。
雨上がりの庭園を歩くジャンマリファリナを思う。木々の葉からしずくがこぼれるたび、青い匂いがする。花から水がしたたるたび、花粉と蜜の匂いが広がる。どこからかみずみずしい果実の匂いがしている。彼は知っている。美しい香りが水から生まれることを。
彼は今日もケルンの水を作り続けている。
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2021/6/19 00:09:12
ラバンデュラ。いい名前だ。ラベンダーを意味する言葉ラバンデュラは、中世の伯爵がハイカラーシャツに合わせるクロスタイのごとき紫リボンをまとった、凛々しい女性用ラベンダー香水だ。さながら男装の麗人。
そんなラバンデュラが2020年夏にどうやら廃番になったようだ。は?なんで?ペンハリガン、なんでそういうことたびたびするの?聞いた瞬間、「?」が飛びまくった。ラベンダー香水って言ったら昔から英国紳士御用達香料でしょう。英国つったらイングリッシュラベンダーの宝庫なはずなのに。
ラバンデュラのリリースは2002年。日本では未発売だったものの、ネット経由でいつでも買えた香水の1つだった。メンズ用香水によく用いられてきたラベンダーの香りを女性向けに使いやすくした稀少な作品。全く、名前もかっこいいのになぜ廃番にしたのだろう。(←やけにこだわるな)
ネット上では、EDP100mlで1万5千円ほどしていたラバンデュラだが、気付けば大幅ディスカウント。そしてすでに公式サイトからその名は消え、世界的にも在庫が少なくなってきているよう。探せばまだネットで在庫を見つけることはできそうだが、日に日に希少になってきているラバンデュラ。では、いったいどんな香りなのか?
ラバンデュラをスプレーする。その瞬間、本当に天然のラベンダーを摘んで鼻の近くに持ってきたような、すばらしいラベンダーの香りに包まれる。シャープでほの暗くて、カンファー様の清涼感があって、花のこんもりクリーミー感もある。このトップのラベンダーノートはとてもいい。
世にラベンダー精油、ラベンダー香水、あまたあれど、これほどスッキリしていて同時にフローラル感のあるラベンダーの紫な香りはなかなかないように思う。たいていはグリーン感が強すぎたり、青臭かったり、あるいは他の香料を引き出すためのアクセントっぽい使われ方だったりして、自分は今まであまりラベンダーは好きじゃなかった。だがこれは違う。とても優雅で凛としていて、怜悧な美しさを醸し出すすばらしいラベンダートップだと思う。
ちなみに、自称ラベンダー香水偏愛家の「世界香水ガイド」のルカ・トゥリンは、このラバンデュラを思いきりたたいていたけど、あの方じたいあまりにストライクゾーンが狭い人でもあるから、この作品に対する彼の評価は自分的にはスルー。ラベンダー香水がそんなに好きでなかった自分が「これはいいな」と感じたことが全てだと思う。そう。感じ方は100人いれば100人違う。
ただ。
天然ラベンダーっぽい香りは、付けてせいぜい20分で終了という感じ。そこからは急速に色あせていく印象はある。もしかしたらこのミドルの弱さが、ルカ的に気に入らない点だったかも知れない。トップのラベンダーにパンチとワイルドさがある分、肝心のミドルでは、香りが急にうすれたように感じてしまうかもしれない。
それでも、周囲にはきちんとラベンダーが香っている。
ラバンデュラはミドルになると、ほんのり甘さが出て、マイルドかつクリーミーなフローラル感を伴ったラベンダーに変化する。色で言うと、紫に白が混じってパステルカラーになったような雰囲気だ。付けてる自分は気付きにくいものの、グリーンな感じとジャスミンのふんわり感が次第に感じられてくるので、構成的にスズランなのだろう。このクリーミーパープルな香りは、冷たい清涼感があって気持ちをリラックスさせてくれる。そんなミドルが3時間ほど続いてドライダウン。持続時間はEDPにしては短めだ。
まとめると、トップが紫色の天然ラベンダー。ミドルはスズランのグリーンとふんわりフローラルが混じったクリーミーパープル香、ラストはそこにトンカとソーピーな甘さが重なって消えてゆく香水。全体的に、カンファーのクールな感じが強いラベンダーに優しいジャスミンを合わせて、ハーブをほんのりきかせたようなバランスに仕上がっている。このバランスが絶妙。時折シナモンやペッパーのスパイスが感じられる点も、キリッとして清々しい。
夏に向かう季節。気温が高くなって湿度がムンと上がってきたら、こういう清涼感のあるアロマティックな香水がとてもいい。ラバンデュラは、天然のラベンダー香をトップに配置しながら、次第にフローラルに変わっていく展開の優しい香りだ。ふだん付けはもちろん、寝香水にすると、ラベンダーの持つ入眠・安眠効果も感じられて、アロマテラピー的にも使える香水だ。
ラバンデュラの夜。ベッドで瞳を閉じる。吸い込まれそうな青空の下、どこまでも続く広大なラベンダー畑が見える。その紫色の絨毯が、爽やかな初夏の風に揺れる。そのとき、紫煙のごとき芳香が夏空に舞い上がる。
天と地の間。一千億のラバンデュラ。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
税込価格:-発売日:-
2021/7/24 03:02:54
オンザビーチ。直訳なら「浜辺で」。ただそれよりは少し情感を持たせて「渚にて」と読みたい香り。
「渚(なぎさ)」は美しい日本語だ。同じ意味で「汀(みぎわ)」という言葉もある。どちらも「水際」という意味合いから生まれた言葉だ。それは陸と海の境目、「狭間」を表している。
オンザビーチは、2021年にリリースされたルイ・ヴィトンのパルファン・ド・コローニュの最新作、5番目の香りだ。100mlで38500円(税別)。
調香を手掛けたジャック・キャヴァリエは、この作品でカリフォルニアのマリブビーチをイメージしたと語っている。だが、今回使われたキー香料は、日本独自の柑橘でおなじみの「ゆず」。さらにラストにはヒノキまで使っている。
なぜアメリカ西海岸の香りを創るのに、日本独特の香料を用いたのだろう?これはどういうことなのか?
その答えを香りから勝手に探ってみる。
オンザビーチをスプレーする。その瞬間、黄色いシトラスの爽やかな香りに包まれる。まず感じられるのは、突き抜けるレモンと甘いマンダリンの香り。数秒後にグレープフルーツのアルベド(白い綿)の苦味とベルガモットのコクのある香りも出てくる。さらに、その下からとてもかぐわしいグリーンなシトラスが広がる。ブランドによると、これがゆずの香りだ。
ゆずは奈良時代から日本にある酸味の強い果実で、独特の香気をもっている。グリーン感が強い酸味と苦みのある黄色い果実といった感じで、最近ではそのゆず独特の香気成分が、ユズノンという微量な油脂による物と確認されている。オンザビーチのトップは、さまざまなシトラスミックスがスプラッシュし、最後にこの黄色いゆずの確かな存在が感じられる。それは朝の黄色い太陽のような香りだ。
朝の渚といえば、自分はスピッツの「渚」の透明感あるメロディーが自然に思い浮かぶ。このトップは太平洋に昇る朝日のような爽やかさに満ちている。
やがて5分ほどすると、下からほんのりフローラル香がしてくる。クレジットにはチュニジア産ネロリとあるが、ローズマリーなどのハーブ香が先に感じられるせいか、あまりネロリという感じがしない。どちらかというとビターオレンジの枝葉の香りであるプチグレンをほんのり効かせたといった印象。このグリーンなゆず香がミドルの核となって香り続ける。それでも印象はとても黄色い。今回のボトルはオレンジグラデだが、香りはかなりイエローシトラスだと思う。
面白いのは、このグリーンで苦みのあるゆずミドルがかなり続くこと。ネロリにもピンからキリまであるが、高音でキンと香るタイプを使用しているかもしれないと思う。
つけて1時間ほどすると、徐々に音階は下がってくる。土っぽい香りとシダーライクなウッディが出てきて、全体が落ち着いた雰囲気になってくる。ゆず香も消えて、わずかなグリーンハーブとネロリのほの甘さを残して、ウッディで終息する。持続時間は自分の肌で2〜3時間。
ラストは、オレンジの夕焼け空を眺めながら歩く濡れた砂浜の雰囲気だ。サンセットタイム。あたりの明度が下がり、海も暗くなり始める。波の音が静かに響き、空はオレンジとピンクのグラデカラーに変わってゆくような風景。そんな風景にシンクロするのは、クリス・レアのど渋い声が印象的な「オンザビーチ」。同じ渚の歌でも、スピッツのそれとはとても対照的なAORの名曲だ。
あ。もしかしたら
トップはスピッツの「渚」のイメージ。朝焼けの赤。日本の東から陽が昇り、ゆず色に輝き始める。そしてミドル〜ラストは、クリス・レアの「オンザビーチ」のイメージ。夕暮れのオレンジの海。アメリカ西海岸に陽が沈む。洋の東西、その間を動く太陽…。
調べたところ、ジャックは「東西のつながり」を意識してこの作品を作ったようだ。なるほど。1日は日付変更線の関係上、日本の太平洋側に陽が昇って始まり、最後はアメリカ西海岸に陽が沈んで終わる。ジャックが住むフランスはその狭間に位置する。東と西の狭間。このオンザビーチは、フランスから見て東にある日本の朝から始まり、西にあるアメリカに日が沈むまでの太陽の動き、その1日のビーチの香りを思い描いたのではないか。
いや単にオリンピックイヤーだから日本の香料を取り合わせたのだろう。そんな意見もあろうとは思う(笑)
日は昇り、日は沈む。陸と海の境目、渚にて。そこはもしかしたら此岸と彼岸の狭間でもあるのかも知れない。
渚という漢字を分解すると、「水」と「土」と「ノ」と「日」に分かれる。「ノ」は流木などの木の枝を表す。つまり渚はその4つの要素でできていて、それら全ての香りがするのだろう。
それは海と砂と流木と、東から西へ旅する太陽の香り。オンザビーチ。
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