- doggyhonzawaさん 認証済
-
- 51歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿426件
2017/3/18 01:25:50
悲しいことがあると、革の表紙を開いたりしない。紫の香りをそっと嗅ぐ。それは、しぼんだ風船のような心にそっと寄り添う、美しいシングルフローラル。アニック・グタールのラ・ヴィオレット。
ラ・ヴィオレットは、2001年に、調香師イザベル・ドワイヤンとカミーユ・グタールによって作られた。1999年に世を去った母、アニックが好きだった菫。母と共に過ごしたフランスのアベロンの別荘「ラ・ヴィオレット」。その庭に咲いていた小さな紫の花の香り。それは、カミーユが亡き母を偲び、母にもらったあふれんばかりの愛や思い出に対する感謝をこめた、ノスタルジックなフレグランス。
ラ・ヴィオレットをスプレーすると、淡く透き通ったうす紫のせつない香りが広がる。一瞬、バイオレットフィズの暗く秘めやかな雰囲気、そしてすぐ、わずかにローズの口紅っぽいワックス香が浮かび上がり、ピンクがかった紫に変化する。それでいて、とてもクールでシャープだ。バイオレットリーフのグリーン香が甘くなり過ぎないようエッジを引き締め、濃い紫の陰影を形作っている。
そしてそのまま、スミレの紫、ローズの赤、バイオレットリーフの青っぽさを7対2対1くらいの割合で展開させながら、パープル・グラデーションの落ち着いた香りが漂い続ける。シングルフローラル系統なので、とてもスッキリとしていて香り立ちはシンプルだ。バイオレットの香りを再現しているのは、イオノンや合成イリスなどだろう。大きく変化しないまま、6〜8時間ほど静かにたゆたう。
正直、このシンプルなアロマケミカルのコンボを思えば、価格はもう少し安くてもいいのではとも思う。特に、2013年に韓国資本となってからは、ボトルの簡素化、値上げ、さらに追い打ちをかけるように廃盤の嵐と、アニック・グタールじたいにいいニュースがなさすぎるので、なおさらだ。また、どうやら不定期に販売されているらしく、限定販売なのか通常販売なのかはっきりしない点も残念だ。現在はまた入手が難しくなっている。せめていつでもどこでも入手できるようにしつつ,値段も手頃にしてほしい1本だ。なぜなら、この香りはとても貴重で、時々どうしてもこれでなければならない時があるからだ。
それは、心が思いっきり滅入ってダウンしている時。そんなとき、これほど静かに、ゆっくりと心に沁みてくる香りはなかなかない。自分にとって、本当にかけがえのない香りだ。
人は元気が出ないとき、つらいとき、悲しくてやりきれないとき、顔がうつむき、呼吸が浅くなる。瞼が重くなり、心の窓も曇る。脳と体はリンクしているからイライラして疲れやすくなり、身体がズシリと重くなって何もしたくなくなる。肌はボロボロ、内臓の働きは悪くなり、ホルモンの分泌も異常をきたす。そして、夜に眠れなくなる。
そんなとき、ラ・ヴィオレットは、本当に効く。訳が分からず涙がこぼれるようなぐちゃぐちゃな心の隣で、静かに、静かに、ただそばに一緒にいてくれる。
嘘だ、たかがフレグランスにそんな効果があるわけない。そう思われても仕方ない。そして、ラ・ヴィオレットが、誰にとってもそんな香りであるとは言えない。それもそのとおりだ。けれど自分には薬以上に効いたのだ。この香りがトランキライザー代わりだった時期があった。その事実は自分の中で真実だ。そんな香りを一つでも見つけられた人は、本当に救われる。香りは、ときに人の心を確実に救うことがある。
夕暮れの町に一人。紫色の闇が刻々と色を変えるとき。春の宵は静かに深く、人の心を孤独に染めていく。別れも出会いも、本当はどちらも同じくらい重たくてきついものだ。だから、春はどこまでも心にくる。どうしようもなく心に紫色の影を落とす。
そんなとき、ラ・ヴィオレットは、一本の冬枯れの木のシルエットのように自分の前に立っている。黒く、魔女の手のような枝々を夕闇の空いっぱいに広げ、裸のままたたずんでいる。葉も花も実も、全てを失ってこんな姿になっても、それでもまだ空を引っ掻き続けるのだと、細い枝々を空に伸ばし、新芽の爆弾が破裂して葉が生まれ出づる時を虎視眈々と狙ってふんばっている。どこまでも虚空にその手を広げて。何も言わず、紫の雲の前で。
人ごみに流されて、変わっていく私を
ラ・ヴィオレットは遠くで叱らない。ただそばにいてくれる。ただずっと、心に寄り添っていてくれる。
- 使用した商品
- 現品
- 購入品
- doggyhonzawaさん 認証済
-
- 50歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿426件
-
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
税込価格:-発売日:-
2016/9/23 00:20:23
秋はスポーツがいい。清少納言のようだが、本当にそう思う。なぜなら、心地よい空気や風を感じて体を動かすと、高温多湿な夏よりずっと集中できて、心身ともに爽快な気分を味わえることが多いからだ。ディプティックのロー・デ・ゼスペリードは、そんなスポーツ後におすすめしたい、心身共にリフレッシュできる香りだ。
ロー・デ・ゼスペリードは、2009年に発売された「ヘスペリデスの水」という意味のオーデコロンだ。調香師は、オリヴィエ・ペシュー。ディプティック創業者の一人であるデズモンド・ノック・リーが最初のオードトワレ「L'Eau(ロー)」を作り出してから40年目を迎えた記念に制作されたロー・シリーズ3本のうちの一本。
ヘスペリデス(黄昏の娘たち)とは、ギリシャ神話に出てくる「黄金の林檎」の木が植えられたヘラの果樹園を守る聖霊たちを指す。ヘラという妻がありながら、次々と恋の相手に黄金の林檎をプレゼントしようとするゼウスからその実を守るために、精霊たちは百の頭をもつ竜ラードーンと共に樹の守り人をしている。そんな精霊たちの水というのは、果たして楽園の水のことなのか、それとも、黄金の林檎からしたたる雫の意味なのか。
ロー・デ・ゼスペリードをプッシュすると、オレンジの果皮の爽やかな香り、葉の苦み、そして、冷たいメントールの香りが漂う。付けたところがひんやりとする。かなりミントが入っているように感じるトップ。冷感マックス。
すぐに、オレンジの香りと入れ替わるように緑色のハーブが出てきてミントと合流。どこかで確実にかいだことがあるグリーンなフルーティーミント風になる。ハーブの香りとオレンジの苦みと冷たいメント―ルと言えば、例えるなら、シ―・ブリーズのシトラスやオレンジ系の香り。あるいは、ヴィックスドロップのオレンジミントっぽい雰囲気。または、夏に大活躍するデオドラントボディペーパーのアイスフルーティーの香り。これらのどれとも同じではないけれど、どれにも似ている。そんな香りのミドル。
香りの変化はそれほどなく、付けたときのオレンジの皮とミントのすっきりした香りが、ややハーバルな雰囲気に移ってそのままドライダウンといった印象。ハーブは、タイムやローズマリーがクレジットされているが、それほど明確には感じられず、グリーンノートといった程度。むしろ、ベースにクレジットされているイモーテル(ヘリクリサム)というキク科の花の香りが出ているよう。イモーテルは、ウッディさとほのかなハチミツ様の甘さがあって、ハーブ系に分類されることもあるアロマティックな香り。強いミントの下から出ているほんのりした甘さとハーバルな感じに一役買っているのだろう。
全体の印象は、シトラス系ミントガム風の同社のオイエドに似ているものの、こちらの方がミントが強く、グリーンな雰囲気が出ている。ミント、ビターオレンジ、ローズマリー、タイム、イモーテルなどが配されていることから、心身のリラグゼーション効果、新陳代謝の促進、殺菌効果などが高く、スッキリとした穏やかな気持ちになれる香りだと思う。
賦香率は10%ほどなので、1〜2時間は香りが続く。一番おすすめの季節は夏だと思うが、それ以外のシーズンでも、スポーツ後にシャワーを浴びて、ちょっとクールダウンさせた頃合いに、好きなだけ体に面付けすると、とても心地よく香る。ただし、付けたところが、ボディペーパーほどではなくてもクールな肌感になるので、付ける場所に注意は必要。制汗効果はないけれど、暑かったり汗をかいたりすると、背中側の腰のあたりから体臭が強くなることが多いので、付ける部位は、背中側の腰付近や左右のウェストがおすすめだ。ちょっとした匂いをマスキングしつつ、さっぱりした香りが柔らかく立ち上るだろう。
季節外れの避暑地の朝。まだ冷たく青い空。草原を吹き抜ける風を感じながら、ジョグで心地よく疲れた体にアイスティーを流しこむ。少し汗ばんだ肌から、ロー・デ・ゼスペリードのミントの香りがする。湖面にキラキラと秋の朝日が反射している。それは、黄金の林檎のようにまばゆく、思わず目を細めた。
涼やかな風と草原の青さをたたえた楽園の水の香り、水面に映えた金の果実とともに。
- 使用した商品
- 現品
- 購入品
3件中 1〜3件表示