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2019/5/25 14:53:49
オレンジの香りが恋しい。気温が高くなってくるとそう思うことがある。レモンは酸味が強すぎるし、ベルガモットほどパンチはいらない。スイートで心が浮き立つようななオレンジの香りがいい。そんな日がある。
果実の香りならアトリエコロンのオレンジサングインがおすすめだ。まんまミカンの香りがする。けれどストレスや不安を抱えていて、ため息を「うっとり吐息」に変えたいなら、質のいいネロリの香りを探してみるといい。
ネロリはビターオレンジの木に咲くオレンジフラワーを指す。質のいいネロリの精油は心によく効き、アロマテラピーの世界ではほんのわずかでも数万円するという。そこまででなくても心穏やかに過ごしたいなら、パルファム・ド・ニコライのネロリ・アンタンスを試してみてはどうだろう。
ネロリ・アンタンスは、ゲラン一族の末裔、パトリシア・ニコライが調香したオードパルファム。「究極のネロリ」を作るべく、自らオレンジの収穫を行って丹念に作った2018年リリースの新しい香り。
縦長のボトルからスプレーする。付けた瞬間、甘いオレンジの香りと、それを追いかけるようにふくよかなオレンジの花の香りがしてくる。わずかにビニルっぽいようなファセットも感じられてまさにネロリだ。同時に葉っぱのちょっとした青臭さ、プチグレンの香りもしてとてもナチュラル。ベースに土っぽい香りも存在しているようで、思った以上にトップから複雑&カラフル。
3分もすると、オレンジやマンダリンの果実香は飛び、ミドルの香りとなる。中心となるネロリの香りにどこかロースティな風合いが混じってくる。何か蜜を煮詰めてわずかに焦がしてしまったような独特の匂いだ。それでいてややツンとした冷たい感じも出ている。
これはおそらくプチグレンのもつ暗い部分の香りだ。ミドルはこのわずかな翳りをまじえたネロリと白い花々の濃厚な香り、そしてシャープな土の香りが渾然一体になって強く主張してくる。確かに「激しい」を意味するアンタンスという言葉どおりの出力。ネロリといえば、こっくりとした甘さとコク、ふくよかなボディのある香りを思い浮かべるが、なかなかシャープでスパイシー。その理由はベースノートで強く感じられるパチュリだろう。
パトリシア・ニコライは大のパチュリ好きで、調香の際にはどの作品にもベースノートにパチュリを用い、香水の土台を作った上に他の香料を配していくようだ。これはかつてゲランの調香師が秘密の配合で行っていた香水の土台作り「ゲルリナーデ」と似た手法だ。彼女の場合はこのベースづくりにパチュリやチュベローズなどをミックスしているという。
そう考えると、この複雑さも理解できる。これは究極のネロリを目指したものでありながら実はネロリ一辺倒ではない。パトリシアの愛するパチュリやチュベローズの混じったベースノート、いわばニコリナーデとも言うべき土台とネロリをミックスしたネロリ香ということだろう。
1時間もすると、このベース部分が表出してくる。チュベローズっぽい残香とパチュリのシャープで土っぽい香りだ。それをホワイトムスクが引き連れながらしばらくたゆたう感じ。さっきまでのふくよかなネロリはどこへ?と思うくらい、パチュリのスパイシーさやウッディが効いた茶色の香りに変わる構成。持続時間は5〜6時間ほど。この後半のパチュリが大丈夫かどうかはポイントだろう。ぜひ肌にのせて試してみて判断してほしい。
ブランド創業者であり、調香師でもあるパトリシア・ニコライは、ゲランの調香師になりたいと願い、その思いを諦めざるを得なかった経歴をもつ。「調香師は代々男」という古き伝統の縛り、そして何よりゲラン帝国じたいがLVMHに企業買収されていく姿を目の当たりにしたことで、彼女は自らのブランドを起こすことを決めた。
「専属調香師がいない香水メゾンには自由がない。調香師は商売ではなく、情熱。」
この言葉に、本当にすばらしい香りを自由に創造したいという彼女の気概がうかがえる。ネロリ・アンタンスは、彼女が尊敬するジャック・ゲランのように、自由かつ徹底的に素材にこだわって作ったスパイシーなネロリだ。1本のオレンジの樹と大地。そこから漂う全ての香りがここに詰まっているように感じられる。オレンジの樹の下に立つ調香師が思い浮かぶ。
オレンジの樹が風にそよいでいる。目を細めた空。緑の葉を透かしてまばゆい夏の太陽が明滅している。日の光を映したようなオレンジの果実がゆらゆら揺れている。枝はどこまでも太陽に向かって伸び、葉がサラサラと風に鳴っている。瞳を閉じると、どこからか甘い蜜をもった花の香りがしてくる。
オレンジの果実と花と枝葉と、大地の香りがしている。ネロリ・アンタンスという名の。
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Jo Malone London(ジョー マローン ロンドン)
税込価格:- (生産終了)発売日:2019/4/5
2019/4/30 01:23:18
4月に限定販売されたブロッサムシリーズの中で、唯一新しい香りだったコチラを購入しました。・・・私が死んだら、ジョーマローンのフレグランスをお棺の中に入れて欲しいとまでブログに書いたのは何年前だったか・・・にも関わらず1年以上ぶりにジョーマローンの香りを購入するというブランド離れ・・・。
ジョーマローンが嫌いになった訳では無いのだが・・・。
商法として昔は、「あり」だったコンバイニングという手法にも懐疑的になり始め…。
ひとつのフレグランスが、それ自体で香りを表現出来ず、『他の香りを組み合わせる事で、香りの世界を広げる』←なんて耳障りは良いけれど、ブランドの売りたい売りたい商法が鼻に付き出したのは事実…(ただ、ジョーマローンは昔からのスタンスを変えていないのだから、私の個人的な気持ちの変化に他ならない)
コンバイニングなど無理にせず、単体でフレグランスを楽しめないなら買わなくても良くなったという所だろうか。
フランジパニ=プルメリア
南国の花というイメージ。
購入して、2週間程の使い始めたトップは、かつての限定品で販売されたナシ ブロッサムにも似た爽やかさで始まり、モワッとしたイメージしかなかったフランジパニに対して??しか無かった事も口コミが出来なかった理由のひとつ。
が、やはり気温が上がるにつれ、使用量が進むにつれ、オレンジの様な酸味を伴うネロリに似たトップのスタートから、時間が経つにつれモワッとしながらもクリーミィーな重甘さへ移行していく。そして、ずっーとツンとした酸味を伴いながらドライダウン。
得てして南国の花は、エキゾチックという言葉で片付けられがちだけれど、このフレグランスにもミドル以降は、その傾向を感じる。
だから、ここで又、コンバイニングという手法で軽めに感じたいなら、ワイルドブルーベルを、よりフローラルを感じたいなら、ハニーサックル&ダバナだと薦められる。
が、今回限定で復活した中の、シルクブロッサムの手持ちの残りがあり、その相棒になりそうだと思ったので、追加購入は無し。
インテンスや、ティーシリーズ、以外の通常のフレグランスのジョーマローン離れは止まる気配が否めない…。
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ミルコ ブッフィーニ フィレンツェ(MIRKO BUFFINI FIRENZE)
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2019/3/1 23:17:55
万物を構成する源、または生命力や聖なるものとしてとらえられている根源的エネルギー、それが「氣」という概念だ。
そんな「氣」を表現して創られた香水がある。2013年にイタリアで生まれたミルコ・ブッフィーニ・フィレンツェからリリースされている「KI・オードパルファム」だ。
ちなみに「氣」は現在使用されている「気」の旧字体。しかしながら合気道や気功、その他さまざまな分野では、現在もあえて「氣」の方を使用しているという。一体それはなぜなのか?そんな漢字にまでこだわって表現した「KI(氣)」、いったいどんな香りなのか?
KIをスプレーすると、まず広がってくるのは白くクリーミーなココナッツの香りだ。すぐさまそこにフルーティーな香りが重なる。オレンジのような苦みと甘いナッツ系のコクが表出してくる。スプレーした箇所がテカテカ光るので、オイル基材で持続させるタイプだろうか。よくバイレードにある感じだ。このナッツ系に思えたコクはどうやらゴマの香りのようだ。フルーティーさはアルデヒドの一種、オクタナールのよう。ちょっとこれまで感じたことのない白いナッティーなイントロ。
3分もするとアルデハイドは消失し、不思議な透明感に包まれてくる。ほんのり甘い白いフローラル、わずかなスパイス、そして空中に吸い込まれていくようなエアリーなココナッツ香。通常ココナッツの香料というと、真夏の太陽の下でムンと押し出してくる日焼けローションのような香りを思い浮かべやすいが、何か清涼感ある香料がそれをクールに引き戻しているイメージ。あえて言うならアルコールで漂白された大気の香り。クレジットを見ると、ローズやマグノリア、クローブ、シナモン等がミドルの香料になっているものの、どれも明確ではない。ただ、やや苦味の効いた半透明なココナッツとヴァニラの片鱗がうかがえるようなミドル。このミドルが6〜7時間、柔らかく香り続ける。そしてそのままドライダウン。
全体的に見ると、ココナッツとヴァニラのクリーミーさは常にあるものの、それがスパイスや清涼感ある香料で中和されて、限りなくうすいミルキーエアーの様相を呈している不思議な香り。ヴァニラやアンバーベースのため、一応オリエンタルフローラル系になるようだが、「白」を感じさせる香料を用い、それらをシャープに見せることで霧のような薄い白のイメージを創ろうとしているかのよう。そのへんが、絶えず集中したり離散したりしつつ世界を構成しているという「氣」の概念を表したようにも思える香り。
では、なぜあえてこの香りは「気」ではなく「氣」と表現したのか?そしてなぜ旧字体の「氣」を今も使い続ける方が多いのか?そこには、言葉に魂が宿る言霊同様、漢字にも魂が宿るという考えからくる歴史上の秘密があった。
実は「氣」という漢字は、戦後GHQの統制によって「気」という表記に改めることを強制された漢字の一つだった。戦争中どんなことがあっても敵国に屈しなかった日本、それはまさに氣骨ある国だった。「氣」は「きがまえ」の中に「米」と書く。「米」は八方に広がってゆく末広がりを意味する吉字だ。アメリカはなぜかこの字を警戒したという。それは国のために自らの命を省みず特攻する「氣」の強さを恐れたせいもあったろうし、当時日本から米国と呼ばれた自分たちが「きがまえ」の中に小さく「米」として押さえつけられていると感じたせいもあるかもしれない。いずれにしろこの「米」の部分を「×」としたのだ。だから新しい「気」は「きがまえ」の中が〆(シメ)になっており、閉じるという意味を表す。GHQはたとえ漢字一字であってもそこまで考えていた。つまり日本人の氣は閉ざされたのだ。そしてそれ以来、日本人の精神性である「KI」は、八方に広がる無限の「氣」ではなく、自己を閉鎖する「気」に変化していったというのである。
イタリア発の「氣」という香水の香りを感じながらしみじみ思う。なんだかもう「気」は使いたくないなと。行きがかり上これからも使用するだろうけれど、できればエネルギーを外側に向けて放射する「氣」のイメージを常に心に描いて過ごしたいものだと。
そう言えば、浅田真央さんが勝負お守りとして大事に持っていた真っ白いお守りにも金糸で「氣」が刺繍されていた。埼玉のパワースポット、三峯神社でかつて月初めに配布されていた「氣守」だ。あまりの大人気で周辺の混雑が緩和されないため、すでに配布は見合わせられ、今は幻のお守りとなっているという。
日本もそろそろ本気で変わろう。時代がもうすぐ新たな扉を開けるのだから。なんなら新しい元号を「氣」にしてもらってもいい。いい字はいい魂を育てるのだから。
どこか仙人の霞のような「氣」の香りを感じながらそう思う春の宵。
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2019/3/16 13:34:33
クリードのスプリングフラワーは謎めいた香水だ。「春の花」という名のこの女性用EDPは、かのオードリー・ヘプバーンのために作られた香水とされているが、実際には詳細がよく分かっていない。
この香りはヘプバーンが亡くなった3年後の1996年にリリースされた。このときクリードは「1951年に彼女のために作った作品。45年ぶりに公開。」としている。ただこれには1980年代中頃に製作されたという説もあるのだ。「どっちだっていいじゃん」そんな声も聞こえそうだがそうもいかない。もし1951年リリースならば、あの名作「ローマの休日」の撮影時、彼女はこの香りを纏っていたかも知れないからだ。
英国で王室御用達ブランドとして地位を築いたクリードは、幾多の有名人のプライベート香水を作ってきたことでも有名だ。ただこの作品が本当に1951年に作られたのだとしたら、少し辻褄の合わないことが出てくる。
第一にその年にはまだオードリーが著名人ではないこと。英国で何本かの映画に出た程度の新人女優。そんな彼女のために専用香水をクリード側が進んで作るだろうか?そうは思えない。だとしたら彼女の方から余程の金額を出して依頼したことになる。とはいえ「ローマの休日」でブレイク前の彼女に果たしてそんなことができたかということ。
第二にその年に作られたとすると時代と香調にズレが生じる。スプリングフラワーは明らかにフルーティフローラル系で、これは1985年以降にブームとなった香調だ。ピーチアルデヒドは1919年ミツコの時代からあったとはいえ、この香水に使われているメロン等の香料は80年代以降に開発、使用されるようになったものだ。だとすればやはり80年代にクリードがオードリーに贈った作品だったのだろうか?
ちなみにオードリーといえば、1957年にジバンシィが彼女のために作った香水、ランテルディの方がずっと有名だ。ランテルディの香りはアルデハイディック・フローラル系で、シャネルの5番に近いタイプだ。実際その時代はそうした香りがまだまだ主流だった。であればなおさら、その5年以上前にフルーティフローラルが作られたとは思えないのだがどうなんだろう。
ともあれ、そんな製作年の謎にこだわり過ぎているのは自分だけだろうから(←正解)肝心の香りはどうかというと。
クリードのスプリングフラワーをスプレーする。すぐに広がるのはフルーティーなファセット。D&Gのライトブルーをわずかに思わせる青リンゴ系のすっきりした香り、そこにクリーミーでほんのり甘いピーチ系香料が重なる。ややアクアティックなのはメロン系香料だろう。トップはこのリンゴ、ピーチ、メロンがほぼ同等の割合でみずみずしく香る。酸味はほぼない。ミルクフレーバーが効いたスイートフルーツポンチといった印象。
5分ほどすると、フルーツの下から白いジャスミンの香りが明確になってくる。確かにフルーティフローラルだなと感じる展開。ミドルの香りは終始このフルーツとジャスミンのユニゾンで展開する。決してハーモニーではなく。それでもフルーツや花は思っていたより重たげでマニッシュ。理由はクリード独特のムスクかなと。それは多少アンバーグリスの潮風感の効いたエアリーで塩っぽい感じのムスクで、クリードの作品にはよく感じられるベースだ。その風味がジャスミンの下から出ててどこか海岸線にいるような雰囲気。苦手な方はよく「瓜系」とまとめる風味。このあたりが好きになるかどうかの一番のポイントかと。あとメチャ高い値段にこの香りが見合うか。(←それだよ)
ラストは大きな変化なく香りが消失してゆく。ピーチやメロンが、塩っぽいみずみずしさを呈したアンバーグリス&ムスクでほの温かくなって。まだ少し肌寒い空、まばゆい日差しを浴びて少しずつ色彩が戻り始めている春の園を思い浮かべる。そんな庭園の柔らかな風を感じるエンディング。
オードリー・ヘプバーン自身、世間の喧騒を離れてハリウッドには住まず、スイスに構えた自宅で四季折々の庭を楽しみながら慎ましく暮らしていたという。春には庭のテーブルに花々を飾り、愛する子どもたちとゆったりとした時間を楽しんだそうだ。晩年の彼女はユニセフ親善大使として何度もアフリカに渡り、その生涯を子どもたちのための慈善活動に捧げた。
そんな彼女こそが永遠の花。この世界に平和と生命の喜びをもたらすスプリングフラワー。クリードはきっとそんなふうに考え、彼女のためにこの香りを創ったのだろう。製作年は分からずとも、クリードのその意気に感じたい。
まばゆい日差し、水蒸気をたっぷりはらんだ大気、清冽な水の流れ、春の息吹に目覚めはじめた庭園。彼女はいつもそこにいる。花の香りをかいで、天使のように微笑んで。
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